3.各教師の信念・過去の指導経験・教師間連携について


3−2.A教師について

 A教師は教師の役割として,生徒の模範となる行動をとることが大事であるという信念をもち,日常的に心がけながら指導を行っていると考えられる。ビリーフ尺度項目の中でも「教師の知識が不確かなことを生徒に知られることは教育上好ましくない。」や「教師は,学校で推進されている授業のやり方を日々の授業に取り入れるべきである。」と考えるように,A教師は授業や日常の中で教師としての自分に責任をもって行動していることが窺えた。

 指導が難しい生徒への指導については生徒の気持ちだけでなく,保護者の考えや教師−保護者関係も大きく影響すると考えていると思われる。これはA教師が「担任」として保護者と接する機会が多いため,保護者のことも重視しなければならないことが考えられる。 

 またA教師は指導が難しい生徒への指導において,すぐに生徒を一方的に指導しようとするのではなく,その生徒の周りの環境要因も探しながら,対応の仕方を考え,その都度対応方法を変化させることを重視していることが示唆された。岡崎(2018)は問題行動をする生徒に被害を受けている生徒の心情や立場を十分に理解し,対応しなければならないが,同時に問題行動をする生徒一人ひとりへも的確な生徒理解をすることで,最適な指導プランを考えていく必要があるとしている。さらに文部科学省(2010)は「生徒指導を進めていく上で,その基盤となるのは児童生徒一人一人についての児童生徒理解の深化を図ることである」と述べている。A教師は指導が難しい生徒に対する生徒理解を十分に行うことでより効果的な指導を行っていることが示唆された。

 A教師は「担任」として,生徒に各々の短所・長所を伝える必要があるという信念をもっていると考えられる。そして生徒への期待を持ちながら,生徒の将来を見据えた長期的な視点で生徒を指導しようと意識していると思われる。

 A教師のインタビューの中では,他教師との連携についての話は出てこなかったが,ビリーフ尺度項目の中では,「学級の問題は担任教師の力でできるだけ解決すべきである。」に「そう思わない」と回答し,「教師として同僚と同一歩調をとることが必要である。」に「そう思う」と回答していた。また,学校適応援助体制充実の指標得点が4名の教師の中で最も低かった。以上のことから,A教師は生徒への指導について,教師間の連携を重視するが,Zクラスの指導においては比較的教師間の連携がされていないと感じている部分もあることがわかった。しかし,インタビューの中で他教師の様子や指導に関する話も出てこなかったことや,他教師と談笑する様子もあることから,他教師とうまくいっていないというわけでもなく,むしろ良好な人間関係であることが予想された。これらを踏まえ,A教師は,担任教師として生徒や保護者と個々に関わる機会が多く,他教師が思っているよりも負担に感じる部分もあるため,A教師は教師間の連携についてこのように感じていると考える。

  

back/next