6.過去の指導経験
教師の認知への影響について検討する上で,教師の「過去の指導経験」にも着目する。
島袋・大城(2012)は高校教師の自己成長がどのような生徒の学習過程への理解や教師の授業理解を基礎づけているのかを明らかにすることを目的として,生徒理解と教師の成長性との関係が性別や教師経験年数等でどう説明されるのか検討した。その結果,教師の成長性は生徒の学校生活(学習・対人・進路における生徒の気持ちや考え方等)を現実的・客観的(努力と他者の援助)に認知している教師ほど見られ,生徒の学習過程への客観的な理解ができない教師は教師の成長性が弱いことが明らかになった。田原(2017)は中高一貫校における教師の指導経験の意味づけを明らかにするために,ライフストーリー法による聞き取り調査を行った。考察の結果,中高一貫校における教師の成長・発達のプロセスとして,@「これまでの勤務校との差異の実感」「生徒の発達に応じた関わり」,A「中高6年間を通しての生徒の変化の実感」から「生徒の歴史を踏まえた指導」,B「生徒を見る視点の変容」から「より丁寧な指導」へという3つのモデルが示された。
このように,教師は子どもとの関わり経験など,過去の指導経験をいかして指導しているといえる。教師は指導が難しい子どもを指導する際に,過去の指導経験を振り返って指導を行うこともあるだろう。そしてその指導経験によって,指導が難しい子どもへの認知が変化することもあるかもしれない。そこで本研究では,教師の子ども認知と過去の指導経験の関連についても取り上げ検討する。
←back/next→