8.質的研究について


8−1.質的研究とは

 本研究では,質的研究による事例的検討を行う。ここでは質的研究について整理する。

 大谷(2017)は質的研究について,量的に測定することができないもの測定する研究で,対象を「量」ではなく「質そのもの」において把握する研究であると述べている。大谷(2017)は質的研究の特徴について以下の9つを挙げている。@仮説検証を目的としない。A実験的研究状況を設定しない。Bインタビューや観察から言語データを作成する。C言語データを分析する。Dデータ以外の得られる資料も総合して検討する。E研究者の主体的解釈を積極的に活用する。F研究対象の有する具体性や個別性を通して一般性や普遍性を追求する。G心理・社会・文化的な文脈を考慮してデータを分析する。Hそうして現象に内在・潜在する意味を見出して理論化する。このような質的研究の特徴や背景を理解して研究を行うことが重要である。

 大谷(2017)は質的研究の手続きは,@リサーチクエスチョンの設定,A研究デザイン,Bデータ採取,Cデータ分析,D理論記述(理論化)のような段階で構成されると述べている。質的研究はこの@からDへと一方向にのみ進むのではなく,データを採取しながらそれを分析し,一定のデータ分析が進んだら理論記述を行い,その結果,まだデータ分析が必要だと判断すればさらに分析を行い,その結果データ採取が不十分であると考えられれば,さらにデータ採取を行って分析していくと考えられている。

 大谷(2017)はデータ分析の手法について,@コード化A理論的コード化B質的データ分析を挙げている。@コード化には,記録を読みながら探索的に自由にコードを付す生成的コーディングと,選定あるいは標準化されたコード群からコードを選んで付すテンプレートコーディングがある。A理論化コード化とはグラウンデット・セオリー(Glaser & Strauss,1967)で行われる独自のコーディングである。グラウンデット・セオリーとは,理論を構築するために多段階のコーディングを行う分析方法であり,オープンコーディング,軸足コーディング,選択的コーディングと徐々に抽象度を高めて事象の背景や構造的広がりを検討して理論を浮かび上がらせていく。B質的データ分析とは,データに付したコードを手がかりに,データを変換,縮約して表示することでデータに潜在する意味を見出す手法である。具体的な手法には,Step for Coding and Theorization(以下SCAT)(大谷,2008)がある。

 大谷(2011)は,「グラウンデット・セオリーは比較的大規模のデータ採取と長い研究期間を要する大がかりな研究であって,ごく小規模のデータやすでに採取した手持ちのデータには適用できない。」と述べている。一方でSCATはインタビュー記録や観察記録などの小規模な言語データやすでに採取して手持ちのデータを分析することに適しているため,本研究では,分析方法としてSCATを使用する。



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