第六章 事例5 伊勢には住んでおらず、伊勢神宮に定期的に参拝している人の事例


インタビュー対象者(Eさん)
 年齢:61歳 性別:女性
 居住地:三重県津市
 出身地:三重県津市
 職業:団体職員
 参拝回数:数えきれないほど多数
 参拝頻度:その他(2、3か月に一回)

主な質問項目
 @伊勢神宮に来るようになったきっかけ、それはいつごろからか。
 Aなぜ伊勢神宮なのか、どのような目的で来ているのか、いつもその目的は同じか。
 Bどのような時に伊勢神宮に来ようと思うのか。
 C伊勢神宮に来ることで心境などの変化はあるか。
 D他にも定期的に行く神社はあるか、それはどこか。
 E伊勢神宮についてどのように思っているのか、どんな存在か。

 2018年11月29日にインタビューを行った。所要時間は約15分であった。以下には、全ての逐語録ではなく、本研究の趣旨に関連する発話を選んで、被面接者から語られた言葉(語り)を編集して記述する。それを踏まえながら考察を進めることとする。したがって、必ずしも当人の発話そのままの記録ではない箇所もある。その場合は発話上のニュアンス等が変わらないように留意して記述する。


 質問項目@の「伊勢神宮に来るようになったきっかけ、それはいつごろからか。」では以下のように語られた。

きっかけですね。小さいころは両親に連れられて行ったっていうことがあるんですけれども、結婚してからは、節目節目、例えば、子どもの入試だったり、あるいは自分の資格試験だったり、あるいは、まあ仕事のことだったり、そういったことで、お願いというよりは自分が頑張りたいな、と思うときに行くという感じです。心の支えにという感じです。それと、例えば試験だったら試験の前だけじゃなくてその結果が出たあとにお礼に伺うという形なので、頻度が増えているという感じです。
必ず、内宮と外宮の両方参らせてもらいます。正式って教えてもらったので、外宮さんに行ってから内宮さんにいくっていうかたちです。それで、内宮さんも、昔はあのご正殿だけお参りさせてもらっていたのですが、荒祭宮という、そこがやっぱりこう何か新しいことを始めたりする時にお参りするといいって教えてもらったのでそこにもお参りするようにしています。
それまでは本当に、年初めに、必ず、年に一回は行っていたんですけれども、きっかけはやはり子どもの入試とかが始まったのがきっかけだと思います。


 Eさんの場合、結婚して、子どもが生まれてから頻繁に行くようになったということである。目的としては、自分のこともあるが、子どものことでお参りに行くこともあり、Eさんが、家族のことを思ってお参りに行くという部分も見える。また、ただお参りに行くだけではなくて、結果が出てからの、いわゆるお礼参りというようなこともしていることが分かる。


 質問項目Aの「なぜ伊勢神宮なのか、どのような目的で来ているのか、いつもその目的は同じか。」では以下のように語られた。(目的については上の質問にて回答があった。)

やっぱりほかの神社よりも、パワーっていうのかな、伊勢神宮にお参りすると心が落ち着いたり、力が得られたり、という実感があるのでやっぱりついつい伊勢神宮になります。

 伊勢神宮からのパワーをもらうことが目的のようだ。やはり心の安定安寧を求めてのことと推察される。また、何か他の神社とは違う感じを感じているようである。


 質問項目Bの「どのような時に伊勢神宮に来ようと思うのか。」では以下のように語られた。

悩み事がある時にも行きます。それで、その目的があって、例えば試験とか目的がある時は、ほんとにさっきも言ったのですが、自分が頑張るぞっていう気持ちになる時に行くことが多いです。あとは、なんかちょっと行き詰まった時に行って心が軽くなるっていうときもあります。一番覚えているのは、伊勢に仕事で出張相談に行っていたのですが、それが、ある時、担当部署が変わったんですよ。その時まで結構いい結果を出していたんですけど、突然担当を変えられることになって、それがなぜかもわからなかったし、頑張って築いてきたものがあったので、なんていうかな、悔しいというか、そういう気持ちがあって、その時に伊勢神宮にお参りをしました。今まで頑張ってきたけど、もう伊勢には仕事では来れないけど、また頑張ります、という気持ちでお参りしたのを覚えています。
こう神様が見ててくれているっていうか、そう思って自分を奮い立たせるというか、そういう面がありますね。


 基本的には、お参りをして、またがんばるぞというように、自分を鼓舞し、伊勢神宮が後押ししてくれるという、そんな存在として神宮をEさんは捉えていることが分かる。また、行き詰まった時に行って心が軽くなるというのはDさんのインタビューでも語られていることで、伊勢神宮にお参りに行くということは何らかの安心感を得ようとしているとも読み取れる。さらに最後には、神様が見ていてくれるとある。この回答から、神様という存在が日ごろから、Eさんの心にあることが推測され、Eさんの日常生活の中に溶け込んでいる存在であると言える。Eさんは、神様を心の中において置くことで、幸せにというか、心を安定させているというようである。

 
 質問項目Cの「伊勢神宮に来ることで心境などの変化はあるか。」では以下のように語られた。

心境の変化を感じるときはよくありますね。特に一番覚えているのは、大学生の時に、県外の友達を連れて行ったんですけど、ちょうど雨上がりで霧がかかっていて、霧というか、もやがかかっていて、ものすごく神秘的だったんです。そのときの光景が一番印象に残っています。やっぱり最初に言った、神秘的なところに来たな、というのと、なんか自分がその穢れを落としたような、そんな気持ちもありますね。

 まず、Eさん以外のインタビュー対象者にも言えることではあるが、誰もが伊勢神宮のことを神秘的と語っていた。伊勢神宮だからこそ感じたことであり、それだけ印象に深く残っていることが読み取れる。「神秘」とはデジタル大辞泉によると、「人間では計り知れない不思議なこと。普通の認識や理論を超えたこと。また、そのさま。」とある。Eさんは伊勢神宮の森の様子や、雰囲気から、このように感じたのである。だとすると、神様の宿る場所である敷地の中と、俗世的な敷地の外で何か雰囲気が異なると言っていることになる。違いを感じさせている主体は何かは定かではないが、違いを感じているということに関しては確かなようだ。また、自分が穢れを落としたような、という言葉には、まっさらに戻ったような自信をリセットするようなそんなイメージも感じられる。


 質問項目Dの「他にも定期的に行く神社はあるか、それはどこか。」では以下のように語られた。

二つあるのですが、一つは川上八幡宮、それからもう一つは伏見稲荷大社です。
たぶん目的は同じようなものなんですけど、川上八幡宮(正式には川上山若宮八幡宮=三重県津市美杉町)は、私が結婚した人の実家が美杉村なので、そこのお宮さんということでお参りさせてもらっていて、そこで、子どもの腹帯とか七五三とか全部そこでさせてもらいました。そこは子どもも大好きで定期的にお参りしています。そこも、やっぱり伊勢神宮と同じで、非常に神秘的で、心が落ち着いたり、パワーを感じたりということがあるので川上八幡宮はお参りします。それから、伏見稲荷大社は、変な話ですけど、そこに偶然お参りして、それからなんかすごく運気が良くなったっていうのでしょうか。悩んでいたことがあったのですが、いろいろ解消されるようなことがあって、それが不思議で、それ以来よくお参りしています。それで、主人と二人で子どもが大学を卒業した時に、お社、といってもそんな大きなものじゃないけど、お社を奉納させてもらってお礼に行ったということを覚えています。
(伊勢神宮と二つの神社の違いを尋ねた。)
伊勢神宮は、どちらかというと、心の平穏っていうのかな、心落ち着かせたり、ちょっとパワーを頂いたりというようなイメージでお参りさせてもらうんですが、伏見稲荷と川上さんは、お願いするっていうのがけっこう強いイメージがあります。これは、私だけじゃなくて、子どもたちがやっぱり何かあったときに、「連れていって」っていうので、子どものリクエストで(伊勢神宮に)行くこともあります。


 Eさんは、伊勢神宮、川上山若宮八幡宮、伏見稲荷によくお参りに行くようである。それぞれに、さまざまな思い入れがあるようであるが、伊勢神宮と比べてみると、違いがあるようである。伊勢神宮については、「心の平穏」という言葉を使っているように日々の安定を得るというようにも読み取れる。伊勢神宮には、やはり「お願い」はしないで、お願いは他の2つの神社でしている様子である。


 質問項目Eの「伊勢神宮についてどのように思っているのか、どんな存在か。」では以下のように語られた。

そうですね。私は伊勢に住んでいる訳ではないんですけれども、伊勢の方のお話を聞いているとやっぱりすごく守られているって、みなさんおっしゃるんです。それで、私はちょっと離れてはいるんですが、やっぱり心のよりどころっていうか、三重県民の心のよりどころっていうのもあるし、あとやっぱり、三重県全体を守っていただいている、まあ三重県全体だけじゃないと思うのですが、守ってもらっているんだな、という思いはあります。あとは、やっぱり、誇りですね。本当に、駐車場に行ってナンバー見ると、県外ナンバーはとても遠いところから来ているっていうのを見るとやっぱりすごく誇りに思います。

 心のよりどころ、というニュアンスが強く感じられた。伊勢市に住むDさんやCさんもおっしゃっていたが、「誇り」に感じているらしい。誇りに思うということは、伊勢神宮を身近に感じているからであって、それは、同じ三重県に住んでいるというところから来るものもあると思うが、やはり毎回お参りに行っていることから、Eさんにとっては身近となっていることが伺える。やはり伊勢神宮はすごい。


 以下、テキストマイニングの手法を用いて、分析を行った。分析は、樋口耕一氏のKH Coderを用いた。Eさんのインタビューでの回答について、「感動詞」を除外した抽出語について、共起ネットワークを作成した。
事例1と同様に、本研究の趣旨と関連のありそうな部分のみコメントしておく。





 緑色に塗られた部分では、「伊勢神宮」に「落ち着く」、「パワー」という語とのつながりが見られる。また、「心」という「単語」とのつながりも見られ、Eさんにとって伊勢神宮が心のよりどころとなっていると考えられる。また、紫色に塗られている部分に注目すると、「行く」という言葉に、「節目」、「子ども」、という言葉が見られる。「行く」という言葉が主に使われているのは、伊勢神宮に行く、神社に行くというようにお参りに行くというニュアンスで使われていることが多かった。そのため、行く目的として、子どもや節目というものがあがっていると考えられる。



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