3.ほめられたことによって生起する感情について




 人は,他者の言動に影響を受け,感情を変化させることがほとんどである。感情と一概に言っても人間の感情は無数に存在するといえ,喜び,悲しみ,怒り,恐怖など,さまざまな形容詞で表現することができる。こういった人の感情を大きく分けると,肯定的感情と否定的感情に二分することができる。

本研究で扱うほめ行為においても同様であると考えられる。他者からほめられたとき,嬉しいや満足といった肯定的な感情,もしくは不快や驚きといった否定的な感情を生起すると考えられる。

青木(2009)は,小学校1年生の児童を対象にし,教師からほめられる際にクラスメイトの存在の有無によって感情に違いがみられることを明らかにした。同じほめられる場面でも,教師と一対一の状況では肯定的感情を抱くがクラスメイトがいる状況では否定的感情も同時に生起する児童もいれば,逆に教師と一対一の状況よりもクラスメイトがいる状況のほうがより肯定的感情が生起するという児童もいた。教師が児童を肯定的に評価しようと意図してほめていたとしても,ほめられる状況が異なることによって,児童にとっては肯定的に受け止められていないこともあるのである。また,2-1で記述した小島(2013)の研究でも,同じほめられ方をしても肯定的にとらえられる場合と否定的にとらえられる場合が存在することが示されている。これらのことは対人関係においても同様にみられるのではないだろうか。自分が純粋にほめていたとしても,相手には否定的な意味で伝わり,真逆の効果が得られる可能性が考えられる。これらのことから,本研究でも同様に,肯定的感情と否定的感情の2つの感情を従属変数として扱い,要因によって生じる感情に違いがあるかを調べる。



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