2.対人コミュニケーションにおける相手との関係性について


2−1.立場について

 対人関係において,人はさまざまな立場の相手とのコミュニケーションが不可欠である。立場のちがいには,年齢や社会的地位,また性別のちがいなどが考えられる。こういった相手のちがいによって,コミュニケーションをとったときの受ける印象も異なってくるだろう。近年,マナー本でも「目上の人に使ってはいけない言葉」といったような上司への態度や言葉遣いについて多々取り上げているように,とくに目上の人と目下の人とのコミュニケーションは社会において重要視されているといえる。  

 ほめに関しても,コミュニケーションの話し手と受け手の立場の違いが与える印象についての研究がされており,とくに上下関係に関してのほめは注目されている。たとえばたとえば,山浦ら(2008)は,上司からのほめが部下の仕事へのモチベーションを高めることを明らかにしており,山口(2015)は,日本語のほめは上の立場から下の立場へ用いられる場合が多く,下の立場からのほめが非常に少ないという特徴があり,とくに下の立場からのほめはほとんどのものが失礼ととらえられてしまうことを指摘している。ほめに「評価する」という意味があることからも,上の立場から下の立場へのほめは肯定的な効果をもたらし,逆に下の立場から上の立場からの人へのほめは偉そうな印象を与えてしまい否定的な印象を与えてしまうと考えられる。

 このような上下関係に加え,対等な関係の相手にも着目し,小島(2013)は,他者からほめられる際に,ほめられる相手・ほめ言葉が伝えられる状況が,ほめの受け手の心理的反応にどのように影響を及ぼすかについて検討している。その結果,教員や後輩にほめられたときと比べ,同級生によってほめられた状況のとき,ほめ言葉を直接聞く場合よりも,第三者から相手のほめ言葉を聞く場合のほうが肯定的に認知されるということを示している。また,教員と後輩にほめられた場合は認知の違いがみられなかったという。

 これより,ほめ言葉を発する相手によってもほめられる人に与える影響に違いがある場合があることや,他の要因との関連によって差がみられることが分かる。この研究では,ほめ言葉を直接受けたか,第三者から間接的に受けたかという状況の違いに焦点をあて検討をしているため,ほめ言葉を発する相手による違いに注目することには検討の余地があるといえる。  



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