1.ほめについての概要


1−2. ほめの機能

 ほめを機能ごとに分類している研究もみられる。

 川口・蒲谷・坂本(1996)は,ほめを「実質ほめ」と「形式ほめ」に分類している。「実質ほめ」は,純粋に相手を高く評価しほめる気持ちを伝えるものであり,感情,意思の伝達によって相手との関係を維持・強化する役割を持っているほめである。たとえば,教師がテストの点数を上げた生徒に対して「よく勉強したね」というようなものである。

 一方,「形式ほめ」は,純粋にほめることが目的でなく,あいさつなどの表現を形式的に伝えることで,関わりたい相手に対する配慮を示す役割を持つほめである。たとえば,友人の描いた絵に対して,あまり上手に描けているとはいえない作品であっても,その友人との関係性を保つために「すごく上手に描けているね」とほめた場合がこれにあたる。さらに林(2002)は,言語ストラテジーの観点からほめを分類している。素直に相手をほめる「純粋ほめ」,儀礼的に形式として相手をほめる「挨拶ほめ」,コミュニケーション・ストラテジーのひとつとして相手をほめる,本来の純粋な意味として用いないほめを「方略ほめ」としている。さらに「方略ほめ」のうち,他者を持ち上げることで何かをさせる「使役ほめ」,良い点を指摘したうえで改善点をいう「改善ほめ」,相手の態度を認める「承認ほめ」,相手をほめることによって自分の優位性を確保する「優位ほめ」,対人関係を修復するために相手をほめる「円滑ほめ」,都合よく便宜的にほめを用いる「方便ほめ」,そして批判や嫌味の意味合いを含む「皮肉ほめ」に分類している。また,教育においても機能が分類されている。これらの分類のもととなる研究として,Brophy(1981)が教員のほめに備わる機能を挙げている。それによると,@驚き・賞賛の自然な表出としてのほめ,A批判との釣り合いを取る・予想や期待の立証をするためのほめ,B代理強化のほめ,Cポジティブなガイダンス・批判を回避するためのほめ,D和解のためのほめ,E生徒が教師から引き出すストロークとしてのほめ,F転換期の儀式としてのほめ,Gなぐさめの賞・はげましとしてのほめ,といった8つに分類されている。教師はこれらのうち,場面,目的,相手,また相手の反応に応じて,適切なほめを選択して用いているといえる。このようにほめは純粋な賞賛としての意味だけではなく,形式的に用いられるケースも多々あるといえる。たとえば形式的なほめのうち,皮肉ほめを受けたとき,それが肯定的なフィードバックであるとは言い難い。このことからも,用いられるほめの種類によってほめられた人への効果は異なると考えられる。



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