5.相互独立性−協調性とストレス過程


 これまでに相互独立性−協調性を個人内変数としてストレス過程との検討を行ったものは多くはないが存在する。奥野・小林(2007)は中学生を対象に相互独立性・協調性の組み合わせと心理的ストレス反応の違いを検討し,相互独立性の下位因子である言語的主張の高さがストレス反応の低さに関連があることや相互協調性の高い群のストレス度が高いことを明らかにした。石・桂田(2010)は保育園児を持つ母親のディストレス(ストレス反応)と相互独立性−相互協調性及びソーシャルサポートとの関連を検討した。その結果,相互独立性−相互協調性の変動の方が,ソーシャルサポートの変動がストレス反応に与える影響よりも総合的に大きいことが明らかになった。また,相互協調性が高い人ほどディストレスも高く,相互独立性が高いと,ディストレスは低くなることを報告した。高山・戸渡(2010)は,中学生を対象に相互協調性がネガティブ関係コーピングに直接的に正の影響を与えることや相互独立性が影響性・統制可能性を媒介しポジティブ関係コーピングに間接的に正の影響を与えることを明らかにした。以上の先行研究から,相互独立性の高さはストレス反応の低減に,相互協調性の高さはストレス反応の増長に影響していると考えられる。しかし,相互独立性−相互協調性がストレス反応に及ぶまでの過程については明らかにされているとは言い難い。先行研究として唯一,相互独立性−相互協調性が認知的評価及び対人ストレスコーピングとの関連が検討されている高山・戸渡(2010)は,相互独立性−相互協調性と達成目標との関連の検討を主眼としており,ストレス過程との考察が十分にされているとは言い難い。そこで,本研究ではLazarusらの心理的ストレス過程「先行条件→認知的評価→コーピング→精神的健康(ストレス反応)」という一連の流れに沿って,先行条件を「相互独立性−相互協調性」に,コーピングを「対人ストレスコーピング 」に設定する。大学生を対象に相互独立性・相互協調性が認知的評価および対人ストレスコーピングに与える影響を検討する。これにより,大学生が最も遭遇する頻度が高いと考えられる対人ストレスを感じた際,個人の中で優勢な自己観によってこれを認知し,対処や解決をしているのかを明らかにすることが目的である。なお,本研究においてはストレッサーの認知とコーピングを主眼に置いているため,精神的健康及びストレス反応は分析の対象としないこととする。    



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