4.文化的自己観(相互独立性−相互協調性)


 相互独立性とは「自己を他者から切り離し,個性的・自律的であることを重視すること」であり相互協調性とは「自己と他者との協調関係を重視すること」であると定義されている(奥野・小林,2007)。文化心理学を基盤とするこの概念はMarkus&Kitayama(1991)によって考案された。マーカスと北山は自己についての心理的過程の背後には少なくとも二通りの「人間観」や「自己観」というものが潜在していると仮定した。そして一方を「相互独立的自己観(independent construl of self)」もう一方を「相互協調的自己観(interdependent construl of self)」と名付けた。相互独立的自己観は「人とは他の人やまわりの物事とは区別されて独立に存在するものである」という前提のもとに成る人間観であり,人間のとる行動はその人に備わった性格や能力,才能,動機といった内的要因に帰属するのであるという考え方である。そして,相互協調的自己観は「人間はまわりの人たちから期待されるように行動するのが自然である」という前提のもとに成り,人は周りの人や社会からその人に求められている役割や期待といったものに突き動かされている存在である,という人間観である。そして,相互独立的自己観が西洋文化的な自己観であり,相互協調的自己観が東アジア文化的な自己観であるとしている。
 東アジア圏である日本においても相互協調的自己観が優勢であるといわれており,これは一般に言われている日本人の気質を考えると,当然である。だが国民性として日本は相互協調的自己観が優勢だとしても,個人の自己観に必ず反映されるということはない。相互協調的自己観が優勢な人もいれば,相互独立的自己観が優勢な人もいるのである。高田(2011)では相互独立性が優勢となる時点があることを報告している。近年ではインターネットや海外旅行の簡易化など,グローバル化が進む現代社会においては西洋的・東アジア的という枠組みにとらわれることなく様々な文化に触れることが可能であり,このような環境の下で相互独立的自己観が優勢な日本人が増えてきている可能性もあるのではないだろうか。
 Singelis(1994)によると,相互独立的自己観と相互協調的自己観は個人内に両立しうるものであるとされている。すなわち,人はこの2つの自己観を常に両方持っており,その時点で優勢な自己観が,その個人の行動を規定するのである。
 このように文化的自己観が個人の行動を規定する個人内要因として様々な心理変数との検討がされている。高田(2011)は日本の小-大学生までを対象に,従来の横断研究と自身の縦断研究とを照合し,相互協調性・独立性がどの発達段階でどちらが優勢となるかについての変遷を観察した。その結果,児童期後期や青年期前期に比べ青年期中期・後期に相互協調性が優勢になることを明らかにした。また,木内(1997)は女子大学生とその母親を対象にし,女子学生・母親ともに自身の中で優勢な自己観と異なる行動を求められると葛藤を感じやすくなることを明らかにした。



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