4.社会人基礎力


4−1. 社会人基礎力について

 社会人基礎力とは,「前に踏み出す力」,「考え抜く力」,「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されており,「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として,経済産業省(2006)が提唱しているものである。「前に踏み出す力」は「主体性」「働きかけ力」「実行力」の3項目,「考え抜く力」は「課題発見力」「計画力」「創造力」の3項目,「チームで働く力」は「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「状況把握力」「規律性」「ストレスコントロール力」の6項目から構成されている。社会人基礎力は,企業や若者を取り巻く環境が大きく変わってきたことにより,基礎学力や専門知識をうまく活用していくためにも,意識的に育成していくことが今まで以上に重要となってきている。そのため,社会人基礎力は今求められている力や行動力であると考えられる。以上のことから,本研究における現在の行動として取り扱うこととする。

4−2. 社会人基礎力に関する研究

 奥田(2014)は,大学生の時間的展望と社会人基礎力の関連について明らかにしている。この研究では時間的展望を測る尺度を二つ使用しており,それぞれに特徴がある。一つが過去と現在の側面を重視した尺度である日本版ZTPI,もう一つは未来の側面をより重視した尺度である時間的展望体験尺度である。この研究において,社会人基礎力の「前に踏み出す力」は,過去を重視する日本版ZTPIで大きな差が見られ,「考え抜く力」は,未来を重視する時間的展望体験尺度で大きな差が見られている。この結果から奥田(2014)は,主体性・働きかけ力・実行力から構成される「前に踏み出す力」は日本版ZTPIにおける過去の肯定といった学生のそれまでの経験などの過去の側面との関連が重要であり,課題発見力・計画力・創造力から構成される「考え抜く力」は時間的展望体験尺度における目標指向性といった大学卒業後の目標などの未来の側面との関連が重要であると推察している。これらのことから,社会人基礎力は過去のとらえ方と関連をもつことが考えられるだろう。しかし,この研究において過去という側面は,日本版ZTPIでは否定しているか肯定しているか,時間的展望体験尺度では受容しているかどうかのみを見たものとなっている。そのため,過去のとらえ方を多様な面から見ることができているとは言い難いと考える。そのため,石川(2013)が作成した,過去のとらえ方を複数の側面から測ることのできる過去のとらえ方尺度を用いて,過去のとらえ方と社会人基礎力との関連を見ていくこととする。    



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