考察
2. 過去のとらえ方について
2−3. 過去を想起する頻度による検討
過去を想起する頻度によって過去のとらえ方に違いはあるのか調べるために,過去を想起する頻度を独立変数,過去のとらえ方尺度の下位尺度得点を従属変数とした一元配置分散分析を行った。その結果,「受容的態度」「わりきり態度」において群間の得点に有意差が見られた。「受容的態度」は過去を想起する頻度が高いほど平均値が高いという結果になった。つまり,過去を想起する頻度が高いほど過去を受け入れることができているということである。これは,「過去を想起する」という行為が,過去を受け入れるといった形でプラスに働いていることが示唆されたと言える。
「わりきり態度」は過去を想起する頻度が低いほど平均値が高いという結果になった。「わりきり態度」には,「マイナスな出来事は,忘れるようにしている。」「「過去は過去」とわりきっている。」といった質問項目が含まれており,過去を忘れないようにしていたり,過去を現在とは切り離していたりするように,過去のとらえ方として肯定的でも否定的でもあると言える。石川(2014)の研究でも,「わりきり態度」は他の肯定的な過去のとらえ方と否定的な過去のとらえ方の両方と相関が低かったため,とらえ方として肯定的でも否定的でもないと解釈されている。しかし,本研究の下位尺度間相関において,「わりきり態度」は「否定的態度」「否定的認識」と負の相関が見られたため,肯定的な過去のとらえ方という側面が強いと考えられる。つまり過去を想起する頻度が低いほど,プラスの意味で過去をわりきっており,過去に固執せず,現在を生きているという特徴があるのではないかと考えられる。
これらの結果より,過去を想起することはプラスの面を持っているが,想起する頻度は高いほどよいというわけではないことが示唆された。野村・橋本(2006)においても,「自我同一性が達成された青年は過去を頻繁に回想するとは言えないが,回想に伴って過去のネガティブな側面をより再評価している」と指摘しているため,過去を想起する頻度が高ければよいというわけではないが,過去を想起することはプラスの面を持っており,大切であると考えられる。
以上より,仮説2は一部支持されたと言える。
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