考察
2. 過去のとらえ方について
2−1. 男女差の検討
過去のとらえ方に男女差はあるのか検討するために,性別を独立変数,過去のとらえ方尺度の下位尺度得点を従属変数としたt検定を行った。その結果,どの下位尺度にも有意差は見られなかったため,過去のとらえ方の男女差はそれほどないと考えられる。石川(2014)が行った研究においても,過去のとらえ方に男女差は見られていなかったため,先行研究通りの結果となった。また,今後の分析を性別に行う必要があるかを決定するため,性別を独立変数,HEMA尺度と社会人基礎力尺度の各下位尺度得点を従属変数としたt検定をそれぞれ行った。その結果,HEMA尺度の下位尺度である「幸福追求」,社会人基礎力尺度の下位尺度である「創造力」にのみ有意差が見られ,どちらとも男性の方が得点が高いという結果になった。「幸福追求」とは,「自分自身の存在を最大限に生かす」ことを目指した動機づけのことであり,浅野他(2014)が行った研究では男女で有意差は見られていなかったため,本研究とは異なった結果となった。「創造力」は,「新しい価値を生み出す力」のことであり,社会人基礎力の中の「考え抜く力(疑問を持ち,考え抜く力)」の一つである。この「創造力」に関しては,先行研究では男女差を見たものが無かったため,本研究で得られた新たな知見と言えるであろう。他の変数においては有意差が見られなかったため,これ以降の分析は男女こみにして行った。
2−2. 過去を想起する事が好きかどうかによる検討
自分自身の過去を想起することが好きかどうかによって過去のとらえ方に違いはあるのか調べるために,過去を想起する事が好きかどうかを独立変数,過去のとらえ方尺度を従属変数としたt検定を行った。その結果,「否定的態度」「受容的態度」「否定的認識」に有意差が見られた。「否定的態度」「否定的認識」は過去を想起する事が好きでない人の方が平均値が高かった。「否定的態度」には,「過去に対して,後悔していることが多い。」「過去のことはあまり思い出したくない。」といったような質問項目が含まれており,「否定的認識」には,「過去は否定的なイメージである。」「「過去」という言葉を聞くと,明るい過去より暗い過去が先に浮かぶ。」といった質問項目が含まれている。そのため,自分の過去に対して否定的に考えていたり,過去にマイナスなイメージを持っていたりすると,過去を想起する事も好きでないということであり,この結果は妥当であると考えられる。「受容的態度」は過去を想起することが好きな人の方が平均値が高かった。「受容的態度」には,「過去に向き合うようにしている。」「過去を振り返ることは大切なことであると思う。」といった質問項目が含まれている。そのため,過去の出来事が自分にとって大切なものであると感じている人ほど過去を想起する事が好きであるということであり,この結果も妥当であると考えられる。
仮説で影響があると考えていた「連続的なとらえ」には有意差が見られなかった。「連続的なとらえ」には,「過去の出来事から学んでいる。」「過去のマイナスな出来事があっての,今の自分だと思う。」といった項目が含まれており,過去の出来事を現在や未来に活かしていく態度と言える。そのため,過去を想起することが好きでなかったり過去に対して否定的なイメージを持っていたりしたとしても,過去の経験を活かそうとしている人はいると考えられるため,有意差が出なかったと考えられる。例えば,過去に大きな失敗を多くしてしまったが,二度としないよう,その失敗を今後に活かしていくといった形である。
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