考察
1. 各下位尺度間相関での検討
仮説1を検証するために,尺度ごとの相関件数を算出した。
過去のとらえ方尺度とHEMA尺度に着目すると,過去のとらえ方尺度の「連続的なとらえ」とHEMA尺度の「くつろぎ追求」の間に有意な負の相関・「幸福追求」に有意な正の相関が見られた。「連続的なとらえ」は,「過去のマイナスな出来事があっての,今の自分だと思う。」といった項目が含まれており,過去を現在や未来に繋がるものとしてとらえている態度のことである。「くつろぎ追求」は,普段の生活において,のんびりした気分やくつろぎを追求していることであり,「幸福追求」は,普段の生活において,自分自身の能力を最大限に活かすことを追求していることである。そのため,過去の経験を活かしていこうとする人は,普段の生活においても,のんびりしていたいという気持ちよりも,限られた時間を大切にして自分の決めた事に向かって頑張っていきたいと考えているのではないかと考えられる。
過去のとらえ方尺度と社会人基礎力尺度に着目すると,過去のとらえ方尺度の「連続的なとらえ」「受容的態度」と社会人基礎力尺度の全ての下位尺度の間に有意な正の相関が見られた。これにより,過去を過去として受け入れていること・過去を現在や未来に繋がるものとしてとらえていることは,社会人基礎力の高さに関連があるということが示唆された。これは,石川(2017)の研究において,過去のとらえ方の「連続的なとらえ」「受容的態度」と精神的回復力の「新規性追求」の間に正の相関があったということと,似た結果が得られたと考えられる。一方で,「わりきり態度」は社会人基礎力との関連はなかった。石川(2017)の研究において,「肯定的な未来志向」と「わりきり態度」には有意な正の相関が見られていたのにも関わらずこのような結果になった。この結果に関しては,過去や現在を軽視しているが未来への希望はあるといった特徴を持っている可能性があるからだと考えられる。石川(2014)においても,過去を過度にわりきっている群が将来に対して希望や目標を中程度には持っていることを明らかにしている。また,このように過去を過度にわりきっていても未来に対してポジティブにとらえている人達の解釈には注意する必要があることも石川(2014)は述べている。そのため,「わりきり態度」が高い人の特徴として,過去を現在や未来に活かしていこうとするのではなく,単に将来はなんとかなるだろうと考えており,「連続的なとらえ」ができていなかったり,「受容的態度」を持てていなかったりしていることが考えられる。
以上より,仮説1は一部支持されたと言える。
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