3. 過去のとらえ方


3−1. 過去の重要さ

 白井(2008)は,「過去に関心を向ける活動があり,次に未来に関心が向いて未来を立ち上げる活動が起き,そして現在へと返ってきて現在を豊かにする活動となる」と述べており,未来を見据える前には過去を振り返り,受け止める必要があるのではないかと考えられる。また,白井(2001)は,青年が将来を見通す際に過去を回想する事の有用性を明らかにしている。近年では,職業選択をする際,自己分析として自分の過去を振り返る活動を積極的に行っている。このように,過去を振り返り,自分の過去を過去として受け止め,未来に繋げていくことは重要であると言えるのではないか。

 また,日潟・齋藤(2007)によって,過去の体験のとらえ直しを行うことが未来への志向性に影響を与えること・過去,現在,未来に対してポジティブな時間的展望を持っている人は,過去の出来事へのとらえ直しや,未来の出来事に対して現実的な認知を行っており,精神的健康度が高いことが明らかにされている。このように私達は,自分自身の過去の経験を自分への自信につなげて未来を描いたり,困難な場面を乗り越えたりしている。そのため,自分自身の過去の経験に関心を向け,振り返ることはとても大切なことであると言える。


3−2. 過去のとらえ方タイプ

 石川(2014)は,過去のとらえ方を複数の側面から把握できる尺度である過去のとらえ方尺度を用いて,過去のとらえ方タイプを見出している。過去のとらえ方尺度は,「連続的なとらえ」「受容的態度」「否定的態度」「わりきり態度」「否定的認識」の5つの下位尺度からなっている。「連続的なとらえ」は,過去を現在や未来に繋がるものとして捉えているのかどうか,「受容的態度」は,過去を自分の過去として受け入れているかどうか,「否定的態度」は,自分の過去に対して否定的に考えているかどうか,「わりきり態度」は,過去は過去とわりきっているかどうか,「否定的認識」は,過去をネガティブなものとしてとらえているかどうかというのを測るものである。この研究では,過去のとらえ方の特徴によって,「過去軽視群」「葛藤群」「統合群」「とらわれ群」という4タイプに分けている。「過去軽視群」は,過去をわりきり,過去に対して肯定的でも否定的でもないという特徴を持っており,一番人数が多い群であった。「葛藤群」は,過去を肯定的にも否定的にもとらえ,わりきることもできていないという特徴を持っており,二番目に人数が多い群であった。「統合群」は,過去の出来事を現在や未来に繋がるものとしてとらえ,過去を受け入れ,過去に対して否定的な態度や認識も持っていないという特徴を持っており,三番目に人数が多い群であった。「とらわれ群」は,過去に対して否定的な態度や認識を持ち,過去をわりきることができていないという特徴を持っており,一番人数が少ない群であった。この研究において一番人数が多かった,過度に過去をわりきっている「わりきり群」が将来への希望・将来目標を持っていると感じる程度は中程度にはあった。しかし,この「わりきり群」は日潟・齋藤(2007)が見出した「自己の過去や現在,未来に対してポジティブにもネガティブにも感じていない」無関心群と特徴が似ており,無感心群は精神的健康度が低いことが明らかにされている。そのため,「わりきり群」の見ている未来,現在の行動等を明らかにする必要があることが指摘されている(石川,2014)。よって本研究では,改めて大学生の過去のとらえ方タイプを見ていくとともに,それぞれの過去のとらえ方の特徴を持った青年が現在においてどのような認識を持ちどのような行動をとっているのかを見ていく。



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