3.自己愛的脆弱性


3−1.自己愛的脆弱性について
 我々は日頃から他者との関係性を重要視するコミュニケーションを多く行っており,その特徴について,荒木(1973)は「個の論理よりも集団の論理を重視し,自律的ではなく極めて他律的で,絶えず和を求めて他者配慮を行う」と述べている。ここから,我々がコミュニケーションを取る際には,協調性に重きを置くなどの特徴があると言えるだろう。さらに鑪(1998)は,「対人関係の文脈の中で適応していくためには,周囲を気にかけないわけにはいかない」と述べおり,対人関係の場の力動性に敏感にならざるをえないような人間関係について述べている。上地・宮下(2002) は,このような人間関係の中で,緊張や不安を自分で緩和する力の弱さに注目し,「他者からの反応による傷つきなどを処理し,心理的安定を保つ力が脆弱であることを示す,自己愛的脆弱性は大なり小なり全ての人に存在する」と述べている。

3-2.これまでの自己愛的脆弱性に関する研究
 上地・宮下(2004)は,自己愛的脆弱性の高い者について「常に他者からの肯定を求めるために他者評価に非常に敏感で,他者の何気ない態度を否定的・無関心な態度と認識し傷ついてしまう」と述べている。TwitterやInstagramなどのSNS上での投稿には,「いいね」という他者からの評価を数字として映し出す機能がある。若者の声の中には,「友人と遊んだ時の写真や,人に自慢したい内容を投稿した際にいいねがないと落ち込んでしまう」といったものもある。直接的に否定的な言葉を言われたわけではなくても,投稿に対する反応がないということがSNS上でのストレスに繋がって,SNS疲れにも影響していると考られるだろう。よって,自己愛的脆弱性の高い者は,より自分の投稿に対する他者の評価や反応を気にする傾向が強くなり,SNS疲れの傾向も高くなるのではないかと考える。また小塩(2004)は,「青年期は養育者からの心理的自立に伴い自己愛傾向が高くなる時期であり,自己愛の高まりに伴い対人関係,特に友人関係に敏感になる者が多い」と述べている。ここから,青年期の若者は,他の年代の者に比べて特に対人関係や友人関係に敏感であるということが分かる。これは現実での他者との関わりだけでなく,SNS上においても同様に言えることであるだろう。SNS上でつぶやきや投稿は自分だけが見るものではなく,少なからず「誰かに見られている」という意識をするものである。フォロワー(自分のつぶやきや投稿を見ることができる人)の中には現実の友人がいることが多く,SNS上でも,自分の立ち振る舞いや友人関係に注意を向けていると考えられる。これらのことからも,自己愛的脆弱性が高いものはSNS利用の際に対人関係に敏感になってしまうことで,ストレスを抱え込みやすくなり,SNS疲れの傾向も高くなると考える。



back/next