2. 自尊感情について


2-3.大学生の領域別の自尊感情

 大学生は,小学校や中学校での義務教育期間を終え,これまで以上に行動が自由になる時期であるといわれている。田北・加藤(2017)では,大学生の自尊感情は,『社会的役割における自尊感情』,『課外での活動における自尊感情』,『日常生活における自己制御の自尊感情』,『家族関係における自尊感情』という4つの領域から構成される可能性が示された。本研究で特に注目している自尊感情は,この4つの領域のうちの『課外での活動における自尊感情』にあたると考えられる。この領域の具体的な内容としては,「趣味やスポーツ、課外活動で満足している」、「趣味やスポーツ、課外活動に打ち込むことができている」、「現在取り組んでいることに満足している」などがある。このような活動自体への満足感というのは,自分がその集団に属することへの優越感,そして,そのようなすばらしい集団に所属する自分自身に価値があるという解釈に繋がり,自尊感情にも影響を及ぼしているのではないかと考えられる。また,本研究で取り扱うような集団内での自分の立場や役割というものも,自尊感情に大きく影響を与えているのではないだろうか。

2-4.集団内における“自尊感情”

 安藤(2000)は,自尊感情が,人々が所属する集団やそれを取り巻く他集団,また,人間関係によって影響を受けるということを述べている。磯崎(1990)は,Tesserの自己評価維持モデルから,個人の自己評価は,かなりの程度,その個人と心理的に近い(close)人々,およびそうした心理的に近い人々のさまざまな活動における遂行(でき具合)によって規定されるとしている。つまり,自己と他者との関係性や他者の行動によって影響を受けることになると述べている。こうしたことから,同じ集団に属するということは特定の他者と関わり,行動することを意味するため,他者の存在が自尊感情に影響を与えていることが考えられる。特に,大学生においては,“集団”で想起されるものとして,学科やコース,部活,サークルといった集団が考えられる。学科やコースは同じであっても,大学は履修する授業が固定されていないことが多く,自由に選べる授業が多いため,常に同じ集団で過ごすことは少ない。しかし,部活やサークルというのは,固定された場・時間で活動をしており,そこに所属する特定の人物との関わりがある。そのため,大学生における集団としては,特定の人物とのかかわりが深い部活・サークルといった集団への所属が,自尊感情の変化に大きな影響を与えていることが考えられる。

2-5.大学生の自尊心の高低に関連する要因

 豊田・松本(2004)は,家族統合度,両親との関係,過去の学校生活で得意科目および充実感があったこと,過去および現在の大学生活での友人関係,自尊心を守る能力,自己受容等が大学生の自尊心と関連していることを明らかにしている。この中で,今回の研究と関連するものとして,「自分が他の人からどのような評価をされるか,非常に気にかかる」といった他者判断に敏感になることを意味する質問項目を含む“自尊心を守る能力”が考えられる。しかし,この研究においてはこの“自尊心を守る能力”と,大学生の自尊心の高低とは関連が見られていなかった。しかし,本研究で焦点を当てている役割の有無において,役割を与えられるということは,他者からある程度の能力を認められている,プラスの評価をされているということが示唆されるため,自尊感情の高低に何らかの影響を与えていることが予想される。

 また,自尊感情と類似した言葉としては,“自己肯定感”や“自己効力感”が挙げられる。岡田(2011)は,土井(2008)の「現代の青年は,自分が高い潜在能力を秘めており,高く評価されるべきであるという期待感を持っている。しかしこれは,具体的な人間関係などの社会的根拠に基づかない過剰な期待感であり,現実の周囲からの期待とのギャップを感知した場合,自己肯定感が低下してしまう恐れがある。これを防ぐために,青年は自分を肯定的に承認してくれる理想的他者を求め,身近な他者の言動を敏感に察知し,互いの対立の回避を最優先にした対人関係を強迫的に維持しようとしている」という指摘について,現代青年は,周囲からの否定的フィードバックを回避し,受容的なフィードバックを引き出すことで,自尊感情を高め,対人場面における自分自身の適切さを感知しようとしていると言い換えられると述べている。つまり,これまで,自尊感情は他者との人間関係によって影響を受けるということが述べられてきたが,その自尊感情の高めることや低めることへの影響の仕方は,個人の他者からの言葉がけの捉え方によってコントロールできるといえる。これらの先行研究から,他者の言動や他者との対人関係が自然に自尊感情の変化に影響を与えるものもあるが,その自尊感情への影響の仕方を自己でコントロールしている場合もあることが考えられる。

 さて,こうした他者との関連という点では,他者の存在が個人の活動のやる気や動機に繋がり,「仲間のために頑張ろう」「応援してくれる人のために頑張ろう」といった他者の影響を含む動機である他者志向的動機との関連が考えられる。



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