5. 役割の有無,特性(意欲/やる気/負けん気)
の高低による自尊感情の変化
役割の有無,特性(意欲/やる気/負けん気)の高低によって,「自尊感情(事前)」と「自尊感情(事後)」の得点に変化が見られるかどうかを検討するため,3要因分散分析を行った。その結果,いずれの主効果,交互作用とも有意でなかったが,事前事後×役割の有無×特性(やる気)の3要因分散分析の結果からは,時期の主効果において,有意傾向であることが分かった。このことは、役割の有無,特性(やる気)得点の高低に関係なく,世代交代前から世代交代後にかけて,自尊感情が高くなる傾向が見られることを示している。飛田(1994)は,自己の貢献度評定の大小によって所属する集団の課題志向性の評定が異なるだけでなく,集団の成員志向性の評定も異なるということを明らかにしている。ここでの自己の貢献度評定の質問項目には,「私はクラブにとってかけがえのない存在である」「私の能力や技術はクラブのために役立っている」など,自尊感情と類似した内容であった。また,集団の課題志向性の評定は,「クラブの伝統を守る必要がある」「クラブの中での役割がはっきりしている」などがあり,集団の成員志向性は「和気あいあいであることが求められている」「みんなで仲良くやろうという意識が強い」などがあった。つまり,自分の集団にとっての存在価値の大小によって,クラブに対する評価が変化するということである。これまで集団に所属することが自尊感情に影響を与えていると述べてきたことや,飛田の先行研究の結果から,役割の有無だけではなく,自分がこの集団に貢献できているか,集団において存在価値があるかどうかということが重要であると考えられる。さらに,飛田(1994)は,自らの貢献度を相対的に高くみなしている成員は,自らの貢献度を相対的に低く評定している成員よりも,集団活動に対する満足度を高く評価していることを明らかにした。そのため,所属する集団に対する満足度が高ければ,役割の有無や向上心に関係なく,どのような集団に所属するかということが自尊感情に影響を与えていると考えられる。
このことから,仮説5〜7は支持されなかったが,役割の有無,特性(やる気)得点の高低に関係なく,世代交代前後において,自尊感情が高くなる傾向があることが分かった。
←back/next→