4.役割の有無,他者志向的動機傾向の高低による自尊感情の変化




 役割の有無,他者志向的動機傾向の高低によって,「自尊感情(事前)」と「自尊感情(事後)」の得点に変化が見られるかどうかを検討するため,3要因分散分析を行った。その結果,いずれの主効果,交互作用とも有意な差は見られなかった。このことから,仮説3〜4は支持されなかったといえる。伊藤・平井(2013a)は他者から感謝される出来事を多く経験する人は他者志向的達成動機に対して,肯定的であることを実証的に示している。他者志向的達成動機とは,ここでいう他者志向的動機と同じ意味合いを持っている。ここまで述べてきたように,集団に所属することや他者の存在というのは,自尊感情の変化に影響を与えている。役割の有無は他者との明確な違いといえるが,役割がなかったとしても,他者から必要とされていたり,感謝されることが多ければ自分自身の価値というものは感じることが出来るため,自尊感情はそこでも変化していることが予想できる。また,伊藤・平井(2013b)は,他者志向的動機を保持している人が周囲の他者との関係において日常的に感謝や信頼感を感じやすいことを実証的に示している。役割は他者との間で違いや差としても捉えられるが,それよりも大事なのは役割があってもなくても,自分がその集団において価値ある存在であるかどうか,他者から認められていると感じられるかどうかなのだと考えられる。集団内のメンバーが,自分に自信を持って活動していくためにも,他者を思いやって活動していくためにも,集団内で感謝の言葉を伝え合うことは重要であるだろう。



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