7.対人葛藤方略スタイル
春日ら(2014)は,期待に対する負担的な反応が自己抑制型行動特性に影響を与え,その結果また期待に対する負担的な反応が高められるというサイクルの存在を示唆し,期待に反する力が重要であると述べている。自己抑制が強い状態として,過剰適応が考えられる。石津・安保(2008)は,過剰適応を「行き過ぎた適応」と捉え,「内的な欲求を無理に抑圧してでも,外的な期待や要求にこたえる努力を行うこと」と定義している。過剰適応傾向のあるものは,他者志向的行動や他者の期待に沿う行動を行うことが明らかとなっている(大獄・五十嵐,2005)。渡部ら(2010)は親からの期待の受け止め方に自己決定意識が影響することを明らかにしている。以上より,期待に対しての反応には,自己主張と他者尊重のバランスが大きく関わっていると考えられる。
対人関係に密接に関係している概念として,対人葛藤方略が挙げられる。対人葛藤とは,「個人の行動,感情,思考の過程が,他者によって妨害されている状況」であり,対人葛藤方略とは「対人葛藤状況において,葛藤解決を目的とし,方略行使者が葛藤相手に対して何らかの影響力を行使しようとした行動」と定義される(Kelley,1987)。本研究でもこの定義を用いる。
Blake & Mouton(1964)は,対人葛藤方略を方略行使者の関心ごとを満たす程度を示す自己志向性と,葛藤相手の関心ごとを満たす程度を示す他者志向性の2次元によって作成された2次元5スタイルモデルに分類している。現在でも支持されており,加藤(2003)が作成した対人葛藤方略スタイル尺度でもこのモデルに基づいている。この尺度では,自己志向性と他者志向性のどちらも高く,自他双方の立場を尊重し協力しながら解決を図るものを「統合スタイル」,自己志向性が高く他者志向性が低く,他者を無視し自分の利益を中心に考えるものを「強制スタイル」,自己志向性が低く他者志向性が高く,自分を抑えて他者に合わせるものを「自己譲歩スタイル」,どちらも低く,葛藤から撤退しようとするものを「回避スタイル」,どちらも中程度であり,要求を下げるなどし部分的な解決を図るものを「相互妥協スタイル」という5つに分けている。先行研究より自己主張と他者尊重が重要であると推察できることから,自己志向性・他者志向性の高さは,期待の受け止め方にも影響すると考える。
以上より,本研究では対人葛藤方略スタイルが教師からの期待の受け止め方に影響を与えると考え検討する。統合スタイルの方略を用いやすい生徒は,自己主張も他者尊重もでき,自分のことも相手のことも考えて行動できるため,積極的に受け止めやすいと考える。他者を優先し自分を抑える自己譲歩スタイルの方略を用いやすい生徒は,自分を抑えて他者の期待に応えようとすると考える。相手にかまわず自分を押し通す強制スタイルの方略を用いやすい生徒は,放っておいてほしいと嫌に感じると考える。
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