6.質的研究について


6-1.質的研究の意義

本研究では,質的研究による検討を行う。質的研究(qualitative research)をごく大まかに述べれば,それは「対象を数においてではなく質において理解するために研究すること」である(大谷,2003)。大谷(2003)は質的研究の特徴として,以下の9つを挙げている。

①一定の仮説枠による仮説検証を目的としない。

②実験的研究状況を設定しない(自然主義的)。

③観察や面接により記録(質的データ)を作成する。

④その際,研究者の主観や解釈を排さない。

⑤主に記録(質的データ)に基づいて分析する。

⑥記録以外の得られる資料も総合して検割する。

⑦研究対象の具体性や個別性に即して分析する。

⑧問題を社会・文化的な文脈で扱う。

⑨現象に内在する意味を見いだす。

質的研究を行う際には,これらの特徴を視野に入れて研究を行うことが重要である。


6-2.複線経路等至性モデル(Trajectory Equifinality Model:TEM)

複線経路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality approach:TEA)は時間を捨象せずに人生の理解を可能にしようとする文化心理学の新しいアプローチである。また,構造(ストラクチャー)ではなく,過程(プロセス)を理解しようというアプローチである(安田・滑田・福田・サトウ,2015)。

安田ら(2015)は,日本でよく知られた質的研究法に,グラウンデッド・セオリー・アプローチとKJ法があるが,これらはいずれもデータから構造を導き出す手段にほかならないと指摘している。それに対してTEAは,プロセスを描くためにさまざまな工夫をこらしている。もちろん,構造を理解するかプロセスを理解するかのどちらかが優れているわけではなく,必要に応じて使い分けるべきであると述べている。

複線経路等至性モデル(Trajectory Equifinality Model:TEM)は,個々人がそれぞれ多様な経路を辿っていたとしても,等しく到達する等至点(Equifinality Point:EFP)があるという考え方を基本とし(安田,2005),人間の発達や人生経路の多様性・複線性の時間的変容を捉える分析・思考の枠組みモデルである(荒川・安田・サトウ,2012)。



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