総合考察


2. インタビューの発話傾向によるカテゴリ分けについて

2−1. カテゴリごとの発話傾向について

 発話の内容によるカテゴリ分けをした結果の中でも,それぞれの特徴が見られた。「気にする」「気にしない」群の2カテゴリに分けた,その中でもさらに細かい特徴が見られた。

 「気にする」群の中の『相手の性格・行動に合わせる』群では,友人5人に対して態度や行動の大きい変化はないものの,相手の性格や傾向を把握しそれに細かく合わせる傾向にあった。これより,友人に合わせ円満な関係を築こうとしながらも,「あまりに人によって態度を変えすぎると不自然に思われてしまうのでは」と周囲の評価も気にするためにあまり大きな自己切替にならなかったのではと考えられる。『相手に嫌われたくない・悪い部分を見せたくない』群では,調査対象者の発話から対人関係における悩みが多いのであろうと考えられる。また,日頃から対人関係の中で友人の性格や行動に振り回されたりすることが他の群の人に比べて多いことも明らかになった。

 一方「気にしない」群の『相手の反応をわきまえた上で気にしない』群は,相手の性格や行動の傾向を読み,把握しようとする傾向が「気にする」群の『相手の性格・行動に合わせる』群によく似ていた。しかし,そうした相手の特徴を踏まえた上で相手に自分を合わせようとする傾向が少ないのがこの群の特徴であった。『相手の反応をそもそもあまり考えていない』群では,相手に合わせる傾向も相手の性格を考える傾向も少なかった。『仲の良い友人には全員素』群については,5人についてはほとんど態度や行動が変わらない様子が見られた。これより,全体的に「気にしない」群の方が「気にする」群より自己切替の頻度が少ない傾向にあった。

2−2. インタビューでの発話傾向と自尊感情の関連について

 インタビューでの発話傾向と自尊感情との関連についても検討した。その結果,『相手の性格・行動に合わせる群』,『相手の性格・行動と逆にする』群,『相手の反応をわきまえた上で気にしない』群は状態自尊感情,特性自尊感情ともに高いことがわかった。また,『相手に嫌われたくない,悪い部分を見せたくない』群,『相手の反応をそもそもあまり考えていない』群,『仲の良い友人には全員素』群は状態自尊感情,特性自尊感情ともに低い傾向にあることがわかった。『相手の性格・行動に合わせる』群では,相手の性格や行動を細かく把握した上で,それに合わせて自身の言動や態度を変える傾向にあった。『相手の性格・行動と逆にする』群では,友人関係の中で役割を意識する傾向にあり,また,自分の目的によって一緒に行動する友人を変えるといった傾向も見られた。『相手の反応をわきまえた上で気にしない』群では,友人の性格や,自分への反応によって話す内容や話し方を少し変えたりすることはあるが,友人それぞれに向ける言動や態度にはあまり違いがないことがわかった。よって,自尊感情が高い人は,本来の自分にも友人関係の中での自分にも自信があるため,日頃から友人関係の中で相手の行動や性格を把握しながら,時に友人に合わせつつ,かつ自分を保っていられると考えられる。

 『相手に嫌われたくない・悪い部分を見せたくない』群では,日頃から友人の感情や気持ちの変化に敏感で,またそれに左右されがちであるため,対人関係に関する悩みが増えてしまう傾向にあった。『相手の反応をそもそもあまり考えていない』群では,基本的にマイペースな性格で,友人と会話をする中でも相手の反応や自分の発言に関して深く考えることが少ない傾向にあるとわかった。『仲の良い友人には全員素』群では,インタビューの中で上げた5人の友人に対してはほとんど態度が変わらないが,それ以外の友人に対しては緊張してしまったり,気を遣ってしまい言いたいことが言えない部分もある傾向が見られた。これらより,自尊感情が低い人は本来の自分にも対人関係の中での自分にも自信がないため,日頃から対人関係の中で相手の言動に左右されてしまう傾向にあると考えられる。

 また,友人関係の中であまり相手のことを気にしない傾向にあった『相手のことをそもそもあまり考えていない』群も自尊感情が低い傾向にあった。これは,自分に自信がないために,友人の反応等を気にしてしまうと考えすぎてネガティブになってしまう自分を自覚しているため,あえて考えないようにしているのではないかと推察される。その根拠として,対人関係の中では『気にしない』といった発言をしているのに,自分自身の話になるとネガティブな発言をしている場面があったことがある。具体例としては『自分に対しての不安とかが多い。』『人に考えながら接することをあまりしない』などの発言がある。これより,この群の人は自分に自信がないことを自覚しているため。友人関係の中でできるだけ考えないようにしている可能性が示唆される。



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