総合考察


1.自尊感情の高低で分類した4群について 

1-1. 4群それぞれの発話傾向について

 まず,それぞれの自尊感情の高低で分類した4群の中で,群ごとに調査対象者の発話や特徴の傾向が明らかとなった。

 状態自尊感情・特性自尊感情両方が高い群では,自分と相手の考え方が違っても,相手と衝突しないように,自分も相手もお互い心地よく過ごせるような心配りをする人が多い傾向にあった。このような行動をとるのは,この群の人たちは自分と考えが違う友人がいても,それに流されたり劣等感を持ったりすることなく「相手は相手,自分は自分」と認めた上で思いやりを持って接することができるためであるためであると考えられる。そして,両方の自尊感情が高いことで,対人関係の中での自分に対しても,本来の自分に対しても自信を持っていることから,この群の人は友人関係の中でこのような行動をとると考えられる。

 状態自尊感情が高く特性自尊感情が低い群の人は,両方の自尊感情が高い群の人よりも落ち着いた態度で自分から感情を大きく表出することが少ない傾向にあった。しかし,自分よりも性格的に明るい友人がいる場合は,その友人に合わせて自分もテンションを上げて明るめに接する傾向が見られた。このような行動が起こる理由としては,明るい友人に対して無理なく接することができる一方で,自らが落ち着いた性格であるが故に明るい友人に盛り上げてもらう方がより心地よく過ごせると考えている可能性が示唆される。そして,このような行動には状態自尊感情が高く特性自尊感情が低いことで,対人関係の中で上手く振る舞える自信はあるが素の自分にあまり自信がない部分があるという部分が関わってくると考えられる。

 また,状態自尊感情が低く特性自尊感情が高い群では,上記2つの群の人よりもインタビュアーに対して口調が淡白で感情の起伏があまり感じられなかった。また,友人に対しては心を開いている人にははっきりとした口調で話し,時には他の人には言いづらいようなことも言うことができるが,そうでない人には控えめな態度を取っている傾向にあった。このような行動になる理由としては,日頃から自分の意見をしっかり持っておりそれを主張したいという気持ちがあるが,それを全ての友人にしてしまうと嫌われてしまう可能性があるため,自分の考えをわかってもらえそうな友人を求めるからではないかと考えられる。そして,これには, 状態自尊感情が低く特性自尊感情が高いことが関わっており,本来の自分には自信があるがそれを対人関係の中で出し過ぎて嫌われたくないと考えるためではないかと考えられる。 

 最後に,状態自尊感情・特性自尊感情がともに低い群では,他の群の人より友人関係の中で悩みが生じやすく,またそれを他の友人にも日頃からなかなか言うことができない部分もあるのではないかと考えられる。また,自分に対してもあまり肯定的にとらえられていないような発言も目立った。このような行動になる理由として,友人の行動や気持ちに対して敏感な部分があり,また自分の行動が他者からどう見られているかについても考えすぎてしまう部分がある,というものが考えられる。そして,これには状態自尊感情も特性自尊感情も低いことで,対人関係の中で上手く振る舞う自信も,本来の自分に対する自信も低くて日頃から不安になりがちであることが関連していると考えられる。

 また,自尊感情の高低によって友人に対する自己切替の仕方には違いがあることがわかった。特に,状態自尊感情が高い人は特性自尊感情が高い人に比べて,友人の性格を踏まえてより細かく自己切替をしている様子が見られた。これより,状態自尊感情が高いことが友人関係における自己切替に自信を持たせているのと同時に,「私は上手く自己切替ができる」という自信があることが,高い状態自尊感情へとつながっているのではと考えられる。また,特性自尊感情が高い人は状態自尊感情が高い人に比べて友人関係の中で自分の考えや価値観を大切にし,自分と感覚的に近いものを感じる相手により心を開く傾向にあった。これより,特性自尊感情が高い人は友人関係において相手が変わってもあまりぶれることなく自分の考えや価値観を大切にすることができるのではないかと考えられる。

1-2. 自尊感情の高低により分類した4群とセルフ・モニタリングの関連について

 上記の自尊感情の高低による4群と,セルフ・モニタリングとの関連についても検討した。自己呈示変容能力については状態自尊感情高・特性自尊感情高群において高い傾向にあることがわかった。上記の考察において,状態自尊感情高・特性自尊感情高群は対人関係の中の自分にも本来の自分にも自信があり,自分と考えが違う友人に対してもその違いを認めて思いやりを持って接することができる傾向があると述べた。自分と考えが違う友人に対しては,関わる際に自分の態度や行動を相手に合わせたり,または相手の意見を尊重した上で自分の意見を伝えるといったことが必要になる場面が多くあるだろう。これより,状態自尊感情が高く特性自尊感情も高い群の人は,自己呈示能力が高いために友人に対してそういった行動が日頃から自然とできるのであろうと考えられる。一方,他者表出行動への敏感さに関しても,状態自尊感情高・特性自尊感情高群が最も高い結果となった。上記の考察で状態自尊感情が高く特性自尊感情が高い群は自分と考えが違う友人のことを尊重しながら接することができると述べたが,日頃から友人の性格や行動,自分に向けられる発言の真意などに細かく注意を払っているからこそ,そのような行動ができるのではないかと考えられる。よって,状態自尊感情が高く特性自尊感情が高い人は,自己呈示能力に比べ,他者表出行動への敏感さも高い傾向にあるため,このような行動をする傾向にあるのではないかと考えられる。 この結果より,自尊感情が高い人はセルフ・モニタリングも高い傾向にあり,自尊感情が高くセルフ・モニタリングも高い人は,友人に対してお互いを尊重しながら自身の行動や態度を上手く調整する自己切替が多いと考えられる。  



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