2.「状況に応じた切替」について


2−1. 友人関係における「状況に応じた切替」の観点

 大学生になると,友人関係は学科,サークル,バイトなど,高校生の頃までより一気に多様化してくる。その中で自分らしくいられる関係を築くことは,大学生が日常生活を充実させる上で重要なことの1つである。そのため,時には様々な環境で出す自分を変えることが,自分らしくいられることにつながってくることもある。

 大谷(2007)は,高校生・大学生を対象に,従来深さ・広さで捉えられてきた友人関係について,新観点「状況に応じた切替」を加えて捉え直すことを試みている。この観点は辻(1999a)の観点を踏襲したものであり,3つの下位概念からなる。1つ目は状況に応じて複数の関係対象を切り替える「対象切替」,2つ目は複数の自己を切り替える「自己切替」,3つ目は複数の関係の相互隔離「関係の相互隔離」である。そして,大谷(2007)はこれらの観点に基づく尺度を用いて心理的ストレス反応との関連も調査している。その結果,表面的なつきあいにとどめることや周囲に合わせるつきあい方は,自己のあり方を切り替える必要があるためストレスを高めるのではないかということ,しかし,そのような表面的なつきあいにとどめるよりも,それらを切り捨てるものの方がよりストレスを抱えているのではないかという考察が得られている。これより,大学生にとって友人との表面的な付き合いは時にストレスが生じる場合もあるが,そのような付き合い方もまた,彼らにとっては重要な関係の1つではないかということが示唆される。

2−2. 「自己切替」について

 丸野(2014)は上記の新観点を用いた研究を行っており,大学生の友人関係では相手やその場の雰囲気に合わせて自分の性格や付き合い方を変える「自己切替」が最も多く使われていると述べている。よって,大谷(2007)の「状況に基づく切替」の3つの下位概念のうち「自己切替」に特化して検討していくことが最も大切であると考えられる。


2−3. 「自己切替」と対人コミュニケーションとの関係性

 上記で紹介した「自己切替」の概念は,大学生の対人関係においてのコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしていることが考えられる。「自己切替」が多くなる要因として,丸野(2014)は大学生は学科やサークルなど人間関係が流動的になるため,相手や場面に合わせて自分を切り替える自己切替が最も多く使われているのではないかということを示唆している。これより,「自己切替」は大学生が様々な人間関係に順応していくために最も必要な友人関係上の手段であると考えられる。

 また,森田・井上(2014)は,大学生の友人関係における自己開示の深さと自己開示抑制の理由の関連を,友人の親しさの違いと性差に着目して検討している。その結果,男性よりも女性の方が多くの自己開示抑制の理由と様々な深さにおける自己開示の量の間に関連が見られ,より複雑な自己開示の特徴を示したと述べている。これより,自己切替に関しても性差による違いがある可能性が考えられるため,自己切替の仕方に性差が関わっているか検討することは大切であると考えられる。

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