【考察】

 1.フローパーソナリティについて

 

 1-2.疎外感について  

 1-2-2.疎外感と活動種類について  

 続いて疎外感と活動の比率について検討した。Csikszentmihalyi & Graef(1975a)の調査では,身体的活動を多く報告する人は疎外感が高く,社交的活動を多く報告する人は疎外感が低かった。そこで本研究でも同様の結果が得られるかを確かめるため,疎外感とK比(全活動数に占める身体的活動の割合)のPearsonの積率相関係数を算出した(Table5参照)。その結果,疎外感と身体的活動の比率に有意な相関が見られなかった。これは,活動の種類と疎外感は関係がないことを示唆しており,先行研究とは異なる結果となった。  

 そこで,疎外感とフローパーソナリティ尺度のPearsonの積率相関係数も算出した(Table6参照)。ここで,フローパーソナリティ尺度とはその人の日頃のフロー頻度や経験を想定して回答しているため,その人の一般的なフロー頻度や経験のしやすさだと判断できる。つまり,日常生活において身体的,または社交的活動において熱中しやすい人,それぞれの活動において没入,自信,挑戦を経験しやすい人と疎外感の関係について検討を行った。その結果,身体的活動において,「空虚感」と「身体的フロー頻度」「身体的活動での没入経験」「身体的活動での挑戦経験」の間,「自己嫌悪感」と「身体的フロー頻度」「身体的活動での自信経験」「身体的活動での挑戦経験」の間に負の相関が見られた。一方で社交的活動においては,「孤独感」と「社交的フロー頻度」「社交的活動での没入経験」「社交的活動での自信経験」,「空虚感」と「社交的活動での自信経験」,「自己嫌悪感」と「社交的フロー頻度」「社交的活動での没入経験」「社交的活動での自信経験」「社交的活動での挑戦経験」の間に負の相関が見られた。ここから,身体的フローに入りやすい人は空虚感と自己嫌悪感が低く,社交的フローに入りやすい人は孤独感と自己嫌悪感が低くなることが明らかとなった。  

 空虚感とは漠然とした不安や無気力感のことであり,身体的活動として挙げられていた活動は,運動や運転,家事といったものが多く,これらは目的がはっきりとしているものである。つまり,このような身体的活動で熱中しやすい人は目的をもって活動を行っていることが多いため,空虚感が低くなることが示唆された。また,孤独感とは他者や社会から孤立している時に感じることが多い。そして,社交的活動は会話やショッピング,食事といった活動であり,他者と関わる活動である。そのため,社交的活動でフローに入りやすい人は,他者との関わりの中でフローに入るため孤独感が低くなることが示唆された。また,自己嫌悪感は自己に対する負の感情であり,フロー経験は活動の種類に関係なく楽しい経験である。そのため,身体的活動,社交的活動に関係なくフローを多く経験する人ほど自己嫌悪感が低いことが明らかとなった。ここで注目すべき点は身体的フロー頻度,社交的フロー頻度とも疎外感と正の相関を示さなかった点である。これは身体的活動の比率とも同じ結果といえる。  

 そこで,実際の活動と疎外感との関係を見るためにESM調査で得た身体的活動での経験の質,社交的活動での経験の質と疎外感のPearsonの積率相関係数を算出した(Table8-9参照)。その結果,身体的活動での経験と疎外感には相関が見られず,社交的活動での能力と圧迫拘束感,社交的活動での満足度と孤独感,社交的活動での他者無意識の程度と自己嫌悪感に負の相関が見られた。これは,会話やショッピングといった他者と関わる能力が高ければ,人からの圧迫感や拘束感などは感じづらいということである。つまり,人と関わる能力が低いほど他者からの圧迫感を感じ,能力が高いほど自由度を感じていることになる。また,社交的活動において他者のことを意識しているほど自己嫌悪感が強く,他者を意識していないほど自己嫌悪感が低い。これは他者との関わりの中で相手と比べてしまうと自己嫌悪感を抱く可能性があることを示している。  

 これまで,マイクロフローと疎外感の関係性について検討してきた。しかし,フローと疎外感というよりは,活動の種類と疎外感に関係が見られそうである。Csikszentmihalyi & Graef(1975a)は,マイクロフロー活動と疎外との間の関係を特定化できないにも関わらず,人々が特定のフロー・パターンを採用する過程には,ある規則性があると述べている。しかし,本研究の結果も併せて見るとマイクロフロー活動と疎外の関係が特定化できていないにも関わらず,規則性を言及した点に問題があるといえる。確かに,活動の種類と疎外感には関係が見られそうだがマイクロフローと疎外感には関係性があるとは言えない。つまり,本研究でも疎外感が強いと身体的フローをよく経験し,疎外感が弱いと社交的フローをよく経験するといったような,マイクロフロー活動と疎外感の関係性を特定化することができなかった。これより,フローパーソナリティと疎外感には関係性があると言えなかった。そのため,仮説6は支持されなかった。ただし,自己嫌悪感とフローパーソナリティにおいてのみ,関係性があることが示唆された。つまり,フローの種類と疎外感には関係があると言えないものの,フローに多く入るAP者ほど自己嫌悪感が低くなるといえる。



back/next