【考察】

 1.フローパーソナリティについて

 

 1-3.自己知覚について  

 1-3-2.自己知覚と活動種類について  

 日常生活の中で身体的活動,社交的活動の占める割合と自己知覚との関係性を調べるために,自己知覚と身体的活動の比率のPearsonの積率相関係数を算出した(Table10参照)。その結果,身体的活動の比率とマイナスの自己評価に相関が見られた。Csikszentmihalyi & Graef(1975a)の調査では,社交的活動が多いほど自己をマイナスに評価し,身体的活動が多いほど自己をプラスに評価していたため,全く逆の結果となった。Csikszentmihalyi & Graef(1975a)は自らの調査結果に対し,社交的活動では他者と自己を比較してしまうために自己評価が下がり,身体的活動では自律的に活動を選び楽しい経験を得ているため自己評価が上がるとしていた。ここで文化圏の違いが考えられる。日本人は協調,協働ということを重んじる傾向にあるため,他者と上手く活動ができる自分に対し自己評価が高まるという可能性が考えられる。一方で身体的活動では自分の楽しさを優先させるという行為が他者との協調性に欠けると判断し自己をマイナスに評価してしまう可能性が考えられる。  

 次に日常的な活動種におけるフロー頻度,経験と自己知覚の関係性を調べるために各活動でのフロー頻度,経験と自己知覚のPearsonの積率相関係数を算出した(Table11参照)。その結果,どちらの活動でもプラスの自己評価と相関が見られた。ただし,身体的フロー頻度や身体的活動での経験との相関よりも社交的フロー頻度や社交的活動での経験とプラスの自己評価の相関の方が多く見られ,活動比率と類似した結果が得られた。つまり,身体的フローよりも社交的フローの方が自己をプラスに捉えやすいというのは文化の違いによるものが大きいことが示唆された。このように見ると,フローと自己知覚の関係性というよりは,疎外感と同様,活動の種類と自己知覚の関係性の方が大きそうである。つまり,フロー経験が自己をプラスに捉えさせるのではなく,行っている活動をどう捉えるかという文化の価値観に違いが見られる可能性が示された。高田(1999)によると,日本人青年は西欧人青年に比べて相互独立性が低く相互協調性が高い。このことからも分かる通り,日本人は協調性を重んじ,西欧人は独立性を重んじる。そのために,身体的活動と社交的活動での価値の見出し方が異なったのだろう。以上より,日本人においては身体的活動よりも社交的活動の方が自己をプラスに評価しやすく,それに伴い社交的フロー経験が多い人ほど自己をプラスに評価しやすいことが示唆された。これより,仮説7は支持されなかったといえる。



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