【考察】
1.フローパーソナリティについて
1-4.心理的well-beingについて
1-4-4.心理的well-beingと活動の種類について
心理的well-beingと実際の活動の質との関係性を調べるためにPearsonの積率相関係数を算出した(Table18参照)。その結果,積極的な他者関係と満足度の間,自律性と能力レベル,集中度の間,環境制御力と能力レベル,コントロール感の間に正の相関,無我の程度との間に有意な負の相関が見られた。これは,佐橋(2003)の調査結果とは少し異なる結果となった。佐橋(2003)では集中度や統制感よりも肯定的感情の方に関係が見られた。しかし,本研究では肯定的感情との関係もあまり多くは見られなかった。これは,佐橋(2003)との調査対象者の違いが大きく影響している可能性がある。佐橋(2003)は中年期の女性を対象としていたのに対し,本研究では大学生の男女を対象としている。中年期の女性は高い挑戦や高い集中力を伴う活動自体が減少するだろう。そのため,活動で得られる受動的な楽しさや満足度が心理的well-beingに与える影響が大きくなると推測される。一方で大学生は,日常生活のなかでも高い挑戦や集中力が必要とされる機会が多い。そのため,活動で得られる能動的な満足度が心理的well-beingに影響を与えていることが示唆される。本研究で能力やコントロール感の影響が肯定的感情よりも大きかったのは,能動的な満足度を得るためには能力やコントロール感が重要な役割を担っているからだといえる。そして,中年期の女性は挑戦や能力が伴わない社交的活動が多く,大学生は身体的活動,社交的活動ともに経験していることが予想される。これより,それぞれの活動経験のしやすさと心理的well-beingについても検討する必要があるだろう。
そこで,日常的なフロー頻度(身体的,社交的),経験と心理的well-beingのPearsonの積率相関係数を算出した(Table19参照)。その結果,人格的成長においては身体的フロー頻度以外と正の相関を示した。また,社交的フロー頻度と経験において多く正の相関が見られた。これより身体的フローの頻度は心理的well-beingと関係があるとは言えないが,社交的フローの頻度が高い人は積極的な他者関係,人格的成長,人生における目的が高くなるといえる。
身体的フローは社交的フローに比べて深い精神集中を必要とする(チクセントミハイ,2010)。そのため身体的フローに入っている最中は活動自体に没入しており幸福感を感じることは少ない。一方で社交的フローは他者との関わりの中で経験するものであり,その場で楽しさや満足感を感じることが多い。そのため,社交的フロー経験での楽しさや満足感などの方が心理的well-beingに影響している可能性が示唆される。また,社交的フロー頻度の方が心理的well-beingに影響を与える要因として,身体的フローよりも社交的フローの方が日常生活で経験しやすいことも考えられる。それは,社交的フローの方が容易に入りやすいからである。このように考えると日常生活において社交的フローの数が多いために社交的フローと心理的well-beingの関係性があるように見える。しかし,フロー率と心理的well-beingに関連が見られなかったことから,フローの多さと関係があるとは言えない。つまり,社交的活動経験での経験の質が高い人ほど心理的well-beingが高くなるとはいえるが,社交的フロー頻度が心理的well-beingに必ずしも影響を与えているとは言いきれない。パーソナリティとwell-beingの関連性については次から考察していく。
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