【考察】

 2.挑戦レベルと能力レベルの与える影響について

 

 2-2.挑戦と能力が活動経験に与える影響について  

 浅川(2003)の調査では,オートテリックな学生もノン・オートテリックな学生も挑戦水準と能力水準が上がるにつれて活動での経験の質は向上していた。本研究でも,パーソナリティに関係なく挑戦水準と能力水準が上昇するにつれて活動経験の質が向上するかを調べるため,一要因分散分析を行い,平均値の高さを比べた(Table38-44参照)。その結果,充実度,集中度,満足度,楽しさは挑戦や能力が上がるにつれて経験の質も向上していた。これは,浅川(2003)の調査と同様の結果であり,これらの集中度も含めた肯定的感情は挑戦と能力の影響をそれぞれ受けているといえる。つまり,フロー没入度が高いほど,集中度が高く,充実し満足であり,楽しい経験をしている。これより,フロー経験は非常にポジティブな経験であるといえる。そのため,フロー経験は自己知覚をプラスに捉えさせるといえるだろう。  

 そして,コントロール感については能力水準が大きく影響していた。コントロール感とは活動を自分が上手くコントロールできているという感覚であるため,活動の挑戦水準に関わらず自身の能力水準に依拠するのだろう。また,フロー経験である高い挑戦―高い能力でのコントロール感も高いため,フロー経験の特徴も満たしているといえる。  

 最後に無我の程度と他者無意識の程度は挑戦と能力の影響により経験の質が変わるということはなさそうである。しかし,他者無意識の程度においては,挑戦水準が低いほど他者無意識の程度が高いとも言えそうである。つまり,低い挑戦での活動ほど他者からの視線が気にならないということである。これは,フロー経験の特徴と相反する結果となった。本来,フロー経験中の他者無意識の程度とは活動や行為に対し強い注意集中をしており,その他のことへ注意が向かないために他者からの視線が気にならないということである。しかし,本研究で明らかとなった他者無意識の関係は,挑戦水準が低い活動において,ぼんやりしているといった何にも注意が向けられていない状態のことである可能性が高い。そのため,フロー状態の要素として考えられていた強い注意集中を測る指標として他者無意識の程度はあまり適していないことが示唆された。また,同様に無我の程度も活動への強い集中から自己を意識していない場合とぼんやりしている場合の二種類が考えられるため,挑戦と能力による差が見られなかったのだろう。従って,無我の程度もフロー経験を測る指標として適していない可能性が示唆された。  

 以上より,フロー経験の指標としては充実度,集中度,満足度,楽しさ,コントロール感が適しているといえる。そのため,挑戦水準と能力水準が上昇するほど,それらの経験の質は高まるといえる。しかし,コントロール感はその中でも能力水準の方が強く影響していることが示唆された。



back/next