【問題と目的】
2.日常生活とフローの関係性
2-1.日常生活で起こるフロー
人は,日常生活の中でも自分の経験や行為にパターンを与え,注意を集中し,フィードバックを得るためにさまざまな工夫をしている(Csikszentmihalyi & Graef,1975a)。そしてフロー体験は,必ずしもフロー経験の特徴である八つの条件全てを達成していなくとも入ることができる。例えば,他者の話を聴く,曲の一部を口ずさむ,などといった活動からもフローは発生し得る。しかし,ロッククライミングやチェスのような強い集中を要するフロー体験と,同程度のフローを日常生活で体験することは,しょせん稀である(Csikszentmihalyi & Graef,1975a)。ただし,低い水準しか必要としないフローは深いフローよりも単純である(Csikszentmihalyi & Graef,1975a)。このように,比較的長い時間を単位とした活動への没入度合いが高いフローではなく,持続時間が短く没入の度合いも比較的低い場合において発生するフローをマイクロフローと呼ぶ(Csikszentmihalyi & Graef,1975a)。そして,マイクロフロー活動は,フロー活動と比べて簡単で,運動,音楽,社交,創造といった活動の種類によって,マイクロフロー体験の特徴が異なる(Csikszentmihalyi & Graef,1975a)。つまり,人は日常生活において様々な形でマイクロフローを体験しているということになる。このマイクロフローの経験は,自分自身に対する積極的な感情や自発的,創造的感情と共に,個人に敏活さと,くつろぎを保たせる機能を果たしている(Csikszentmihalyi & Graef,1975b)。また,Csikszentmihalyi & Graef(1975a)が,マイクロフロー活動は人の生活の状況次第では,深いフローと同程度のフローを経験をすると述べていることから,日常生活においてマイクロフローを多く体験することによって日常生活の質を向上することにつながると考えられる。そして,マイクロフローは深いフローへの契機となることもあるため,Csikszentmihalyi & Graef(1975a)は,極端に低いフローから極端に複雑なフローに至るまでフローモデルはつながっており,マイクロフローと深いフローは連続体上にあると述べている。
これらより,フローの研究を進めるうえで日常生活でより多く体験しているであろうマイクロフローについて調査することは非常に重要だといえる。
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