【問題と目的】

3.自己目的的とは

 
 

 3-3.自己目的パーソナリティ  

 上述したように,自己目的的な要素の最も少ない活動を楽しむことができる人々もいれば,内発的報酬に満ちたものごとすら,外発的誘因を必要する人々もいる(Csikszentmihalyi,1975)。つまり,フローを経験しやすい特性の人とフローを経験しづらい特性の人がいるということである。チクセントミハイ(2010)は,このようにフローに入りやすい特性の人のことをオートテリックパーソナリティ(AP者)とし,入りにくい人のことをノン・オートテリックパーソナリティ(NP者)とした。AP者(自己目的的パーソナリティ)は,どのような外発的報酬を受け取るかとは無関係に自分の行為を楽しむことができる(Csikszentmihalyi,1975)。一方で,NP者は非常にフローを体験しづらい(Csikszentmihalyi,1990)。  

 NP者がフローを経験しづらい可能性は大きく二つ考えられる。一つ目は,生得的な遺伝により,注意が散漫しやすいということである(Csikszentmihalyi,1990)。注意が散漫になることで,自分のしている行動に対して注意が集中しきれないとフローに入ることは難しくなる。そして,二つ目は自己中心的や自意識過剰になりやすいということである(Csikszentmihalyi,1990)。意識が自分の目的にのみ向けられており,外への注意が向かないためにフローへ入りづらい(Csikszentmihalyi,1990)。つまり,注意が外か内に硬直し,固定しているためにフローは妨げられている。この二つの特徴は,活動をする際の心理的エネルギーが統制されていない点において共通している(Csikszentmihalyi,1990)。NP者の特徴より,フローには心理的エネルギーが統制できることが必要条件になってくるともいえる。そして,AP者の特徴としては,自分の周囲のものを客観的に観察し分析するための心理的エネルギーを十分に持っていることがあげられる(Csikszentmihalyi,1990)。心理的エネルギーが十分にあることで,活動の中により多くの新しい挑戦の機会を発見しやすくなり,フローに入る機械が多くなる。そのために,フローの経験がしやすくなる。  

 また,AP者とNP者の無関心領域(低い挑戦―低い能力)での感じ方の違いにおいて,AP者は無関心領域に低い幸福感と低い動機づけを感じているのに対し,NP者は無関心領域においても不快感を感じていない(チクセントミハイ・ナカムラ,2003)。また,AP者とNP者の幸福感を比べると,AP者の方が高い幸福感を示している(チクセントミハイ・ナカムラ,2003)。さらに,フロー領域での感情を比較すると,AP者はフロー領域でストレスや緊張,欲求不満を感じていないのに対し,NP者はフロー領域においてストレスや緊張などを感じている(チクセントミハイ・ナカムラ,2003)。つまり,AP者とNP者ではそれぞれの活動状態(フロー・アパシー・不安・退屈,リラックス)において感じ方に違いが見られるということである。このようにAP者とNP者の感じ方の比較をすると,AP者はNP者に比べてフロー経験を楽しいものだと感じており,NP者はAP者に比べてアパシー経験を心地よいと感じているといえる。そのため,フロー経験に対する感情はAP者の方がポジティブに捉えており,NP者に比べて高い水準で活動に取り組む傾向があるといえる(Csikszentmihalyi,Rathunde & Whalen,1993)。また,石村・小玉(2014)はAP者とNP者を比較すると,AP者の実生活上には再び行いたいと思うようなフロー体験の生じる活動が複数あり,生活全体に対する関与度が高いため,AP者は習慣的にフロー活動によって覚醒した快適さ,リラックスなどの情動にアクセスできると述べている。  

 また,これまでのフロー研究において,フローパーソナリティとして,フローを経験しやすいAP者とフローを経験しづらいNP者の特性や違いについてしか焦点が当てられていない。しかし,日常生活の中で経験しやすいマイクロフローには型があり,どの活動でフローに入りやすいのか,どの活動を多く行っているのかには個人差があった。そのため,単にフロー経験のしやすさでパーソナリティを分けても,その内容には違いがあるろう。Csikszentmihalyi & Graef (1975a)は,マイクロフローについて社交的活動と身体運動的活動は互いに排除し合っており,どちらかの活動でフローを経験しやすければ,もう一方の活動領域ではフローに入りづらいと述べていた。しかし,日常生活を送る上で,社交的フローと身体運動的フローのどちらも経験しやすい人がいることも予想される。そのため,従来のAP者というまとまりを,身体運動的領域で価値を見出しやすい人(K-AP者),社交的領域で価値を見出しやすい人(S-AP者),どちらの領域でも価値を見出しやすい人(KS-AP者)という三つに分類できると推察する。また,従来の研究では日常生活の活動の種類しか検討されていないため,実際に行っている活動とパーソナリティとの関連を検討する必要があるだろう。    



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