【問題と目的】

4.心理的well-being

 
 

 4-1.快楽と楽しさ  

 フローは内発的動機づけの内実とされる深い楽しさや喜びを伴う幸せの体験である(Csikszentmihalyi,1975)。人々は幸せ,すなわち,幸福は快楽を経験することだと考えており,良い食事や素晴らしい性的活動,金で買えるあらゆる満足の中にあると考えている(Csikszentmihalyi,1990)。しかし,快楽は生活の質を構成する重要な要素ではあるものの,幸福感はもたらさない(Csikszentmihalyi,1990)。快楽は意識の中の情報が設定された期待がかなった時に生じる満足の感情であり,秩序の維持には役立つが,それ自体で意識に新しい秩序を創ることはできない(Csikszentmihalyi,1990)。つまり,ある欲望を満たすための心理的エネルギーは少なくて済み,挑戦水準も能力水準も低い状態で得られる満足感である。たとえば,とてもお腹がすいている時に食事をするとお腹は満たされ,快楽を得られるであろうが,その快楽は長くは続かない。そのため,快楽は人をより高い水準へと導くような発達的要素を持っていない。  

 一方で,幸福感の中でも人をより高い水準へと導く感情がある。それは,楽しさである。楽しさとは,人生の生きがいと関係をしており,単に期待が満たされたり,欲求や欲望が充足されたりするだけでなく,予想しなかったことや事前に想像さえしていなかったことを達成した時に生じる感情である(Csikszentmihalyi,1990)。 つまり,楽しさは達成感覚によって特徴づけられる(Csikszentmihalyi,1990)。また,楽しさを感じるときの人々は,その活動中に報告するのではなく,行為が達成した後に振り返ることで楽しさを報告することが多い。その行為中は活動に集中をしており,楽しさというものを感じる心理的エネルギーが足りていないのだろう。また,楽しいことの後では,自分が変わった,自己が成長した,その結果ある面で自分は以前より複雑になったことを知る(Csikszentmihalyi,1990)。  

 以上のように,楽しさと快楽は全く異なり,心理的エネルギーの投射なしでも快楽は感じるが,楽しさは通常にない注意の投射の結果として生じる(Csikszentmihalyi,1990)。しかし,幸福感は快楽でも楽しさでも感じることができる。つまり,幸福感はフロー状態でもアパシー状態でも感じることができるということになる。そこで,次項では幸福感と心理的well-beingの違い,フローとの関係性について焦点を当てる。  



back/next