【問題と目的】

4.心理的well-being

 
 

 4-2.幸福感と心理的well-being  

 フローとは内発的動機づけの内実とされる深い楽しさや喜びを伴う幸せの体験であり(Csikszentmihalyi,1975),幸福感の高さと関係がある(Csikszentmihalyi&Rathunde,1998)。しかし,チクセントミハイ(2010)はフローを体験している時,われわれは幸福でないと述べている。幸福を体験するためには,自分の内面に注意を向ける必要があり,フローを体験している最中は活動にのみ注意を向けており,幸福を感じる時間はない。このことより,チクセントミハイ(2010)はフローの体験を回想する際に幸福になれると述べている。つまり,フロー体験を多く経験している人ほど幸福感が高くなるといえる。しかし,浅川(2003)の調査により,AP者とNP者で,集中力,楽しさ,活動度,コントロール感,自分に対する満足感,充実感において有意差が出たにも関わらず,幸福感においては有意差が出なかった。これは,幸福感がフロー以外でも体験できることに起因している(浅川,2003)。つまり,挑戦水準の低いリラックス状態やアパシー状態においても,そこに心理的・生理的アンバランスの回復過程が関わってくる場合,その活動は私たちに幸福感や心地よさといった内発的報酬をもたらす(Nakamura & Csikszentmihalyi,2002 )。  

 そして日常生活の中で,成人なら仕事をしている時,子どもなら学校へ行っている時に平均よりも幸福度が低くなり,モチベーションは普通よりもかなり低くなる傾向がある(チクセントミハイ,2010)。しかし同時に,集中度は比較的高くなり,一日のうちのほかの時間よりも精神作用はよく働いている(チクセントミハイ,2010)。また,勤務中や学校でのフロー体験も多く報告されている。これらのことより,フローと幸福度との関係を図ることは難しい。また,チクセントミハイ(2010)によると,自己申告に基づく幸福感は,人の生活の質に関しては,あまりよい指標にならないことを述べている。そこで,Wells(1988)は,フロー状態にいる時間の量と自尊感情は低い相関がみられることを明らかにしている。  

 また,石井・石井・林(2007)もフローとは,内発的に動機づけられた自己の没入感覚をともなう「楽しい」経験を指し,精神的健康を維持促進するための重要な要素として,生きがいや充足感と密接な関係を持つと述べている。さらに,浅川(2003)もフロー経験は価値的に望ましいものであり,日常のさまざまな場面において,できるかぎり多くの経験場面をフロー化することが,生活全般の質,well-beingの向上につながると述べている。そして,Csikszentmihalyi(1990)も日常生活において可能な限り,フロー体験を蓄積することがWell-beingの向上につながると述べている。つまり,オートテリックな人ほど,心理的well-beingが高いといえるだろう。これらのことより,フローと精神的な健康を調べる際は幸福感よりもwell-beingが適しているといえよう。よって,本研究では,フローと精神的健康の関係性を測る指標としてwell-beingを用いることとし,ユーダイモニックウェルビーングを心理的Well-beingとして扱うものとする。  



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