考察
1. それぞれの要因の関連について
課題前に測った「楽観性」,課題前後に測った「ポジティブ感情」「ネガティブ感情」「精神テンポ」の関連性を見るために相関分析を行った.結果はTable3に示した通りである.
1-1 楽観性と感情の関連について
楽観性とは「物事がうまく進み,悪いことよりも良いことが生じるだろうという信念を一般的にもつ傾向」と定義される(戸ヶ崎ら,1993).楽観性とポジティブ・ネガティブ感情との関連を見るために相関分析を行った結果,楽観性と事前のポジティブ感情で有意な正の相関,事前のネガティブ感情とは有意な負の相関が見られた.このことから,楽観性が高くなるほど,ポジティブ感情が高く,ネガティブ感情が低いことが示された.外山(2013)は,ポジティブな感情の高揚を予測する因子として楽観性を挙げていることから,先行研究と同様の結果であったと考えられる.
1-2 課題前後の感情の関連について
課題前後のネガティブ・ポジティブ感情の関連性をみるために相関分析を行った結果,課題前後のポジティブ感情での有意な正の相関が見られ,事前のネガティブ感情と事後のポジティブ感情において有意な正の相関が見られた.すなわち,事前のポジティブ感情が高いとき,事後のポジティブ感情も高くなることが示されたということである.これによって,課題の前後で感情に変化がないことが示唆された.つまり,ポジティブ感情が元々高い場合は,課題後もポジティブ感情が高いままであるため,ポジティブ感情の高さは相対的には変わらないことが考えられる.また,事前のネガティブ感情が高いと事後のポジティブ感情も高いことも示された.佐藤ら(2001)は,ポジティブ感情とネガティブ感情を対極にあるものとして,ポジティブ・ネガティブ感情尺度を作成していることから,事前のネガティブ感情が低いということは事前のポジティブ感情が高いとも捉えることが出来ると考えられる.またこれらの結果は,課題の前後で感情が変化することを示唆している.
1-3 課題前後の精神テンポの関連について
精神テンポの事前事後間における関連性を見るために相関分析を行った結果,課題前後の精神テンポに有意な正の相関が見られた.このことから,精神テンポが遅いほど,課題後の精神テンポも遅く,課題前の精神テンポが速いほど,課題後の精神テンポも速いということが示された.このことから,課題前後で精神テンポが変化するが,課題前に精神テンポが遅い人は課題後も遅いままであり,課題前に精神テンポが速い人は課題後も速いため,相対的には変化しないことが考えられる.また,松田(1979)は,精神テンポは青年後期頃から恒常性が高くなることを示しており,精神テンポは一度形成されると容易に変化しないということを述べている.そのため,精神テンポが遅い人が急激に精神テンポが速くなるようなことは考えづらいのではないだろうか.
2. 楽観性と精神テンポについて
楽観性の高さによって精神テンポの速さに違いがあるかについて検討するためt検定を行った.まず楽観性については,平均値で低群と高群を分けて検討した.結果はTable4の通り,楽観性の高低と精神テンポには有意な差が見られた.先行研究で,山崎(2009)は「喜び」のような快感情は速いテンポで表されると述べており,さらに楽観性の高さとはポジティブ感情を持ちやすい要因の一つであると外山(2013)は述べているため,ポジティブを快感情と捉えると,楽観性が高いと快感情を持ちやすいと言うことである.そのため,楽観性が高いとその人には速いテンポが流れているのではないかと予想したが,結果から,仮説1, 2の中の楽観性が高いと精神テンポが速く,楽観性が低いと精神テンポは遅くなるという部分が支持された.
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