2.音楽について
2−3. 音楽のテンポについて
澤村(2004)は音楽の持つ構成要素として,メロディ・リズム・ハーモニー,音色,緩急と
強弱等を挙げている.このリズムを構成しているものとしてテンポが存在する.前薗・管
(2017)は音楽のテンポと既知感が時間判断に及ぼす影響について研究している.その結
果としては,テンポの速い音楽の方がテンポの遅い音楽に比べて有意に時間判断が長く
なることが示された.このことから,テンポが遅い音楽を聴く事で作業を行った時間は実
際の時間よりも短いと答えると予想することが出来る.また,Milliman(1982)は,消費者行
動に音楽のテンポが与える影響を明らかにした.店舗内で速いテンポの音楽と遅いテン
ポの音楽を流し,消費行動の違いを見ると,速いテンポの音楽の場合購買行動が速くなり,
回転率が上がるが,遅いテンポの場合,ゆっくり買い物をするため,購入する選択肢が増え,
購買額が高くなるという結果が出ている.吉野(2003)は単純作業において既知の音楽を
聴取すると音楽に注意が向いてしまい,さらにテンポが遅い音楽を聴いたとき,テンポに
誘導されて作業が遅くなってしまうことを示した.これらのことから,テンポによって行
動への影響が異なることが考えられる.音楽と行動についての研究では吉野(2003)の様
に,作業への影響を見ているものが多い.
2−4. 音楽と作業について
作業において認知負荷量の違いによる音楽の影響について阿部・新垣(2010)は検討しており,この研究で認知負荷量が高いものというのは計算課題のような知的作業のこと
であった.また,中程度のものをパソコン入力課題,低いものを歩行課題としており,そこで
の課題の時間を計測し,比較していた.その結果,認知負荷量が低い課題,つまり単純作業に
おいては BGM のテンポにより作業効率が上がることを示している.しかしながら,作業
の種類により,快適なテンポがあり,速すぎるとミスを増発することに繋がることも示さ
れている.また,井上・吉田(2011)は音楽によって計算課題の正答率が下がることを示して
いる.合掌・水野(2010)は好ましい BGM が作業効率に与える影響について検討しており,
学習する際は音楽がない環境で行うのが一番好ましい環境であることを示し,学習の際
は音楽を聴かない方が良いと述べている.このことから,音楽の効果は認知負荷量の低い
単純作業のときのみ表れるのではないかと考えられる.
さて, BGM の効果についての検討として,計算課題や飲食等の行動については多く研
究されているが,単純作業として用いられているものは,歩行テンポのような運動課題で
ある.しかし,日常的に BGM として音楽を聴く場面として考えると,室内で買い物をして
いる時や,ごはんを食べる時,あるいは勉強する時などではないだろうか.つまり,運動を行
う場面よりも,体を動かさずに行うものの方がより日常に近い行動だと考えられる.この
とき,体を動かさず,単純に行える課題の一つとして塗り絵が考えられる.塗り絵は,絵が苦
手 な 人 で も 気 軽 に 出 来 る と い う 手 軽 さ が 強 調 さ れ る も の で あ る ( 初
田,2007).Eaton&tieber(2017)は,塗り絵課題の際,自由に彩色する群が,模倣する群よりも
ネガティブ気分の低下が大きく,不安の低下もより大きいことを示している.また,野末・
近江・長尾(2018)は塗る色を指定されている時の方が自由に彩色出来る時よりも,創造性
を要求されないため,精神的に安定することを示している.これらのことから,音楽聴取に
よる効果を検討する課題として,色を指定した塗り絵課題はふさわしいのではないかと
考えられる.
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