5.外傷後成長


5.1. 外傷後成長について


 外傷後成長(PTG)は, “非常につらい出来事に対するもがきの結果生じる肯定的な変化”と定義されている(Tedeschi & Calhoun, 2004). そして, 重大なストレスを体験した多くの人がPTGを体感している(Taku, Calhoun, Tedeschi, Gil-Rivas, Kilmer, & Cann, 2007; Tomich & Helgeson, 2002). 外傷後成長尺度は, 「他者との関係」, 「新たな可能性」, 「人間としての強さ」, 「精神性的(スピリチュアルな)変容」, 「人生に対する感謝」の5つの下位尺度から構成されている. 本研究では, 人生において最も後悔した出来事について想起させ, その内容について質問を行う. 最も後悔した出来事はストレスフルな出来事であると位置づけることが出来るだろう. このようなストレスフルな出来事を経験したことによる, 熟考するなどのもがきの結果, 外傷後成長を遂げるということが考えられる. 最も後悔した出来事を経験した結果の, 適応的な変化の指標として, 本研究では外傷後成長を回答時にどの程度遂げているか測定する.


5.2. これまでの外傷後成長に関する研究


 意図的熟考は外傷後成長に関連があるが(Cann, et al., 2011), 意図的熟考と類似している概念として, “意味づけ(meaning making)”がある. これは, ストレスフルな体験を乗り越えるための認知的対処方略であり, ある出来事が生じた意味を探究・理解しようとする認知的コーピングおよびその過程である(Park, 2010). 上條・湯川(2016)は, 個人の省察特性, 反すう特性, によって, ストレスフルな体験に対する, 体験当時の意図的・侵入的熟考, 現在の意図的・侵入的熟考, 出来事に対するポジティブ・ネガティブな意味づけの程度がどの程度異なるか, そして, それぞれどのように影響しているのかを共分散構造分析を行うことで検討した.そして, 「省察特性が高いほど, ストレスフルな体験をした当時に意図的熟考を行い, その出来事に対してポジティブな意味づけを行ったり, 外傷後成長を遂げたりすること」, 「省察特性が高いほど, その出来事に関する現在の意図的熟考を行い, そして, 外傷後成長を遂げること」, 「体験当時の意図的熟考が, 出来事に関するネガティブな意味づけを促進し, そして外傷後成長に負の影響を与えること」などを明らかにした. また, 「当時の意図的熟考は, 現在の侵入的熟考を促進し, 出来事に対するネガティブな意味づけを促進し, 外傷後成長を抑制する」ことも明らかにされている. そして, 宅(2010)はストレス体験をきっかけとした自己成長感について日本の高校生を対象に調査を行ったが, 日本の高校生独自と思われるような成長感の内容が見いだされたと述べている. 例えば, 「世の中は思い通りにいかないこともあると思うようになった」というような内容で, これは外傷後成長尺度には含まれていない内容である. 宅(2010)は, このような変化を「成長」と定義するかどうかは文化的背景や個人によってもことなると述べ, 「心理的な成長」に対する根源的な疑問を抱いている. つまり, ストレス体験などの辛い経験をきっかけとした心理的な成長には, 外傷後成長尺度で測定できないものや, ポジティブともネガティブとも一義的には決定することが出来ない内容があるということである.
 また, ストレスフルな体験に対し, 体験者自身が意味を見出す事で, 心身健康が回復することが明らかにされている(Roberts, Lepore, & Helgeson, 2006). 外傷後成長を遂げるなどして意味づけが促進されるほど, 抑うつと関連のある後悔が低減されることが予想される.
 よって, 本研究においては, 最も後悔した出来事に対する反すう, 特に意図的熟考が後悔を意味づけることや外傷後成長を遂げることにどのように影響するかを明らかにするとともに, 上條・湯川(2016)によって, 外傷後成長を促進することが明らかにされた意図的熟考高低群と, 間接的に外傷後成長を抑制することが明らかにされた侵入的熟考高低群の組み合わせで回答者を4群に分類し, 群ごとに外傷後成長に関わる内容以外でどのような特徴が見られるかを明らかにしたい. また, 外傷後成長の促進にかかわる気そらしや反すうが後悔の低減に影響しているかどうかも明らかにしたい.

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