4.出来事に関連した反すう
4.1.出来事に関連した反すうについて
反すうとは, 出来事について繰り返し考えることであり, 意味づけとの関連が指摘されている(Joseph & Linley, 2005; Park & Folkman, 1997). 出来事に関連した反すうは, 侵入的熟考と意図的熟考に分類される. 侵入的熟考は, 無意図的・制御困難な反すうで, 意図的熟考は, 意図的・積極的に体験の価値や影響について思考する反すうである(Calhoun, Cann, Tedeschi, & McMillan, 2000). また, 侵入的熟考は, 抑うつやストレスの増大, PTSDと関連があり, 一方, 意図的熟考は, 適応的なコーピングや外傷後成長と関連がある(Cann, Calhoun, Tedeschi, Triplett, Vishnevsky, & Lindstrom, 2011). 外傷後成長とは, “非常につらい出来事に対するもがきの結果生じる肯定的な変化”と定義されており(Tedeschi & Calhoun, 2004), つらい出来事を経験し, 向き合った結果の成長感のことである.
後悔に関する先行研究においては, 後悔に対してどの程度向き合って反すうを行ったかについて, ほとんど検討されていない. よって, 本研究では後悔をした直後や, 意味づけを行う直前から数週間前までの反すうを測定することで, 人が後悔を感じてから適応的になるために有効な反すうの行い方を明らかにしたい.
4.2.これまでの反すうに関する研究
Nolen-Hoeksema & Morrow(1991)の反応スタイル理論における「考え込み反応」も「rumination」と訳され反すうと類似した概念である. 先述のとおり, 考え込み反応には, 個人が置かれている現状と, 達成できない基準とを消極的・あるいは受動的に比較することで抑うつを持続・増強させる「brooding因子」と自己の内側へ目を向け, 認知的な問題解決に従事することで抑うつ症状を軽減させる「reflection因子」の2因子が存在する(Treynor, et al., 2003). 「brooding因子」が侵入的熟考に, 「reflection因子」が意図的熟考に当たる.
上條・湯川(2016)は, これまでの人生の中で非常にストレスを感じた出来事に対する反すうや意味づけなどの関連について調査した. その結果, 当時の驚異評価が当時の意図的熟考を促進し, そして, ポジティブな意味づけや外傷後成長を促進することや, 当時の意図的熟考から現在の意図的熟考へは有意なパスは見られないことが明らかになった(Figure 1). しかし, 外傷後成長とは“非常につらい出来事に対するもがきの結果生じる肯定的な変化(Tedeschi & Calhoun, 2004)”であるから, 出来事に対する苦しみやもがきの結果遂げられるものである. 既に出来事に対する後悔が低減していたり, 意味づけし終わっている場合, 現在はその出来事について苦しんだりもがいていないことが予想される. そのため, 意味づけが終わっている場合, 現在において出来事に関連した反すうもあまり行われないことが予想される. 上條・湯川(2016)は調査した現在の意図的熟考から外傷後成長への因果関係を検討していたが, 既に意味づけがなされ, 回答者があまり出来事について熟考していない場合には, 因果関係が成立しないことが考えられる. よって本研究では, 質問フォームに回答したような外傷後成長を遂げた直前からの数週間の間に, どの程度出来事に対して熟考を行っていたかを調査することで, 外傷後成長を遂げるためにどのように熟考を行うことが有効であるのか明らかにしたい. 本研究では, 外傷後成長を遂げる直前から数週間の間に行った出来事に関する反すうのことを, 「外傷後成長前の熟考」と呼ぶことにする. また, 後悔した出来事について, 反すうと外傷後成長や驚異評価(後悔の大きさ)の関連性について検討した研究はほとんど見られない. よって, 本研究では後悔が意味づけされ外傷後成長を遂げたり, 後悔の大きさが低減されたりする過程において, どのように出来事が反すうされているのかについて検討したい. そのため, 後悔感じ始めた直後(以下, 後悔直後と記述する)の熟考と, 外傷後成長前の熟考について検討する.
←back/next→