1.はじめに


   筆者は他者と関わる中で, “しなければよかった”, “しておけばよかった”と感じるような経験によって, 抑うつ感情を感じるだけに終わってしまう者と, 一方, その様な経験から抑うつ感情を感じるのみならず, 後悔から教訓を得て今後の生活に常に役立てようとしている者がいるということを感じている.後悔から教訓を得た者は, 教訓に即して行動することによって, 同じような後悔を感じなくて済むように行動していた. そのような知人の姿を見て筆者は, 自身も後悔から意味を見出して, 次の機会に活かすことが出来るようになれば, 同じ失敗を繰り返さずに, 日々成長できるのではないかと考えた. 先行研究においても「教訓」という位置づけで抽象的知識が提示されたり, 抽象的知識を提示された際に自ら教訓を産出することで, 類推による問題解決は促進されることが明らかにされている(山崎, 2001). 後悔から意味を見出したり, 過去の経験から成長を遂げたりすることが出来る者は, その経験についてどのように思考しているのだろうか.
   後悔は, 日常において最も頻繁に表出されるネガティブ感情である (Shimanoff, 1984). 新聞記事などにおいても頻繁に「後悔」という単語が見られる. 例えば, 東京新聞で紹介されている記事によると, 静岡県の伊東温泉では, かつて段差や階段が沢山あったために, 体の不自由なお客さんが温泉に入れないようになっていたことをスタッフが後悔していた. そして, この後悔を活かし, 高齢者, 要介護の方, 体の不自由な方, 赤ちゃん連れの方が利用しやすい温泉施設に作り替えている(山崎, 2019). また, フィギュアスケート選手の羽生結弦選手は, 2014年冬季オリンピックにおいて, ショートプログラムでは満足のいく演技をしたものの, フリープログラムでは, 最も難しい4回転サルコーや, 羽生選手にとってはそう難しくないはずの3回転フリップで転倒してしまった. 羽生選手は, 「自分の中ではすごい後悔がある. 難しい舞台だとあらためて痛感した. 」とコメントしている(東京新聞, 2014). そして4年後の平昌五輪では難度の高い演技構成で世界最高得点をマークし優勝している. 羽生選手は「いい練習をしてこられたことが演技として出た」と述べており, 4年前の後悔を糧に努力を積み重ねてきた結果, 難しい舞台で満足のいく演技をすることが出来た(東京新聞, 2018). また, 豊田東高校の高校生は, 「試験期間中についスマホを使ってしまい, もっと勉強すれば良かったと後悔したことがある. 」と述べており, 自戒を込めて描いた漫画で最優秀賞を受賞した. 「光っている竹に気付かない竹取の翁」などを描き, スマホに依存することで何かのきっかけが失われてしまう様をまとめている(中日新聞, 2020). このように後悔は労働者, アスリート, 未成年など様々な年代の人が日々感じている. そして, 後悔したことがきっかけで, 状況を改善したり, 努力を重ねたり, 他者に対して教訓を伝えたりしている. 新聞の例からも, 後悔は人に抑うつを感じさせるだけではなく, 人の考え方や感じ方を変容させたりするということが推察される. 本研究では, 後悔に対する意味づけ, 後悔の低減, 後悔を感じたことによって得た気付き・教訓や成長感の関連について検討する.


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