2.後悔


2.1.後悔の定義・分類


   後悔の定義は研究によって様々である. Zeelenberg & Pieters(2007)は,“違う決定をしていたら今の状態がもっとよくなっていたかもしれないと想像したときに感じるネガティブな感情”と, 定義している. Zeelenberg, van Dijk, van der Pligt, Manstead, van Empelen, & Reinderman(1998)は, “自分の選択した行動と選択しなかった行動とを比較し, 選択しなかった行動のほうがより良い結果が得られたと感じる場合に生じる, 苦痛を伴った認知的感情”と定義している.後悔は, 抑うつと関連性があることが明らかにされている(塩崎・中里,2010)ため, 後悔を低減させる方法を明らかにすることは, 抑うつを低減させ適応的になる方法を明らかにすることに繋がり, 意義がある. 道家・村田(2009)は, 過去の意思決定を振り返った時に生じる「経験後悔」と, 未来において現在の意思決定を振り返った際に生じるだろうと予期される「予期的後悔」に分類した. また, Gilovich & Medvec(1994)は, してしまったことに対して, しなければよかったと感じる「行為後悔」と, しなかったことに対して, すればよかったと感じる「非行為後悔」とに分類した. Gilovich & Medvec (1995)が, 行為後悔と非行為後悔について調査し, 実験参加者にそれぞれの後悔について想起させたところ, 先週後悔した出来事について尋ねると, 非行為後悔よりも行為後悔の方が僅かに多かったが(非行為後悔47%に対して, 行為後悔53%), 人生を振り返って後悔した出来事を想起した際は, 行為後悔よりも, 非行為後悔の方が想起されやすい事を明らかにした(行為後悔16%に対して, 非行為後悔84%). Gilovich & Medvec (1995)は行為後悔の方が合理化されやすいということを示し, それは, 行為を行った理由や動機が想起しやすいからだと推測している. Miller & Taylor(1995)も, 最近の出来事に関しては, 非行為後悔よりも行為後悔の方が記憶されやすく, そして, 類似した場面においてその後悔が想起されやすいと述べている. それは例えば, スーパーのレジで列を並び替えた時には, 列を移動しなかったときよりも, 「もとの列にとどまっていたら!」というように, 行動した時の方が, 行動しなければ良かったという反実仮想を行いやすいからである. 反実仮想とは, “もし…ならば, …だったのに. ”といった, 現実と非現実を比較する認知過程で, 後悔との関連が指摘されている比較プロセスである(Gilovich & Medvec, 1995; Kahneman & Miller, 1986; Roese, 1997). 合理化されやすいとされている行為後悔について調査することで, 行為後悔が意味づけされる過程を明らかにすることができるだろう. また, 非行為後悔について調査することで, どのような観点から意味づけすることで, 合理化されにくいとされている後悔が意味づけされやすくなるのかを明らかにすることが出来るだろう. よって, 本研究では行為後悔と非行為後悔それぞれについて調査する. また, 合理化のされやすさや, 想起されやすさが異なる為, 意味づけ過程が異なるということが考えられるため, 分析に関しても行為後悔と非行為後悔に分けて行うこととする.

2.2.後悔への対処方法


   上市・楠見(2004)は, シナリオ実験によって, 後悔した場合における意思決定スタイル(分析型−直観型), 行動選択(行動する−しない)と後悔の対処方法(合理化, 行動の改善, 行動選択の変更)との関連性を明らかにした. 行動の改善では, “今度は失敗しないように努力する”または, “今度は行動できるように努力する”かどうかを尋ねた. また, 行動選択の変更では, 好きな異性に告白するという行動をとり後悔した場合, 今後は自分から告白しないようにしようと考えるかどうかを尋ね, 告白しなかったことで後悔した場合に, 今後は自分から告白しようと考えるかどうかを尋ねていた. しかし, 後悔した出来事について合理化したり, 行動の改善・行動選択の変更を行おうと考えるようになるまでの間に, 後悔に関してどのように思考しているのかは明らかになっていない. また, 上市・通谷(2012)は, 今までの人生で最も後悔した出来事について, どのような対処(反省, 合理化(よい経験になった), 逃避(考えないようにした), 自己正当化(自分は間違っていない), なにもしなかった, 気晴らし, 情緒的サポートの利用(アドバイスを求めた), 感情表出)を行ったかどうかを尋ねている. そして, 後悔の原因を内的に帰属し, 反省し, 合理化することで, その出来事に対する現在の後悔が低減されたり, 後悔について反省することが, 適応的行動(似たような失敗を繰り返さないようになった, その経験を教訓として他のことにも役立てた, その経験から今までの考えを改めた, 自分の行動を変えた)を促進することを明らかにした. また, 適応的行動によって, 後悔による成長(その出来事によって自分は成長できた, その経験があっかたらこそ今の自分がある)が促進されることを明らかにした. しかし, 反省や合理化をする際にどのような点に着目して熟考していたのかについては明らかにされていない. また, 適応的行動と後悔による成長の間に因果関係・序列関係はあるのだろうか. 例えば, 適応的行動を測定する項目“その経験から今までの考えを改めた”というのは, その人の人生観が変容しているような内容であり, 後悔による成長とも捉えられるのではないか. よって, 本研究では, 後悔に対してどのように熟考したかと, 後悔による成長について検討することに加え, 「後悔から得た気づき」, 「後悔したことを, 自分の人生にどのように役立てているか」などについての記述を分類することで, 後悔をしたことによる考え方・感じ方・生き方・世界観などの変化の種類を検討したい. 非行為後悔を感じた者が, 今後行動するようになるか, 行動を控えるか, そして, 行為後悔を感じたものが行動を控えるようになるか, 引き続き行動しようとするかといった, 「行動の変容」については上市・楠見(2004)などによって, 既に検討されている. よって, 本研究では, 行動選択の変更・継続に関する記述を除き, 記述にどのような特徴が見られるかを非行為後悔と行為後悔それぞれについて検討したい.

2.3. 後悔の時間的変化


   上市・楠見(2004)は, 後悔した出来事に対して合理化, 行動の改善, 行動選択の変更を行った結果, 5年後にその出来事についてどの程度後悔していると予想されるかについてシナリオ実験を用いることで明らかにしている. しかし, 実際に回答者が経験した出来事について尋ねている訳ではない. よって, 本研究では回答者が実際に経験した後悔について尋ねることで, 現実場面において, 時間が経過するにつれて後悔に対する向き合い方がどう変化していくのか, 後悔の大きさなどに変化があるかどうかを検討したい.

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