考察


12. 行為後悔における「後悔直後の意図的熟考」と「外傷後成長前の意図的熟考」が「後悔の低減」に与える影響


 行為後悔において, 外傷後成長を遂げることに影響していた「後悔直後の意図的熟考」と「外傷後成長前の意図的熟考」が, 後悔の低減に影響しているかどうかを検討する為に, 「後悔直後の意図的熟考」高・低群, 「外傷後成長前の意図的熟考」高・低群において, 「後悔の低減得点」に有意差があるかどうかを検討した. その結果, いずれも有意な結果は得られなかった. また, 「当時の後悔の大きさ」と「現在の後悔の大きさ」には有意差があり, 後悔の大きさが有意に低減していた. つまり,回答者全体として後悔が低減しており, 後悔直後と外傷後成長前の意図的熟考の高低によって後悔の低減得点に有意差が無く, 後悔直後と外傷後成長前の意図的熟考の頻度が低い者であっても後悔が低減していることが示唆された. よって, 仮説Dについては明らかにすることが出来なかった. 上市・楠見(2004)は, 何度でもやり直しが出来る場面(告白やスキーなど)と, やり直しがきかない場面(入学試験など)に分類して後悔感情が時間の経過と共にどのように変化するのかを調査し, その結果行為後悔はどちらの場面であっても時間の経過と共に減少することと, 行為後悔は合理化によって対処されることを明らかにした. 上市・楠見(2004)の合理化の内容は“〜〜したことはよい経験になった”というものであり, 適応的諦観尺度(菅沼, 中野, 下山, 2018)の項目“うまくいかなくても何かしら意味があると思う”と類似している. 適応的諦観とは“自己や現状のネガティブな側面をそのまま受け入れつつも, そこにこだわらない前向きな態度”と 定義されている. 先行研究より, 行為後悔を低減させる方法の一つとして, 適応的諦観の状態になることが挙げられる. しかし, 意図的熟考を測定する項目には, “自分が経験していたことに対処することで, 人生に何か変化があったかどうか考えていた. ”などの項目があり, 適応的諦観を遂げる過程でこのような類の意図的熟考は行われない可能性がある. よって, 意図的熟考低群であっても, 適応的諦観などの適応的な変化が生じていることで, 後悔が低減しているということが考えられる.


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