4.報復度に関する考察


 従属変数の報復度に関しては,本研究において唯一交互作用が見られなかった.報復度は場面の主効果と欺瞞行為の種類の主効果が見られ,ゲーム場面の方が日常場面より,報復度が有意に高く,危害欺瞞はどちらの場面においても,他の3種類の欺瞞行為より,報復度が有意に高いことが明らかとなった.日常場面では,何かしらの被害を相手から受けた際に,報復が抑制されたときに許容に至るプロセスが示されていることから(田村,2009),日常場面における危害欺瞞は,相手に害を加える許容されにくい欺瞞行為であるため,先行研究と同様の結果が得られたといえる.しかし,ゲーム場面における危害欺瞞について,許容度は日常場面よりゲーム場面の方が有意に高くなっているにも関わらず,報復度についても日常場面よりゲーム場面の方が有意に高い結果が示されており,これらは先行研究とは矛盾した結果となっている.このような結果となった理由として,次のことが考えられるだろう.
 越中(2005)によると,報復には,自分が受けた仕打ちを相手に返す「利己的な報復」と,「利他的な報復」があることを指摘している.「利己的な報復」は自分が何かしらの仕打ちを受けた際,そのような仕打ちをした相手に報復することであり,「利他的な報復」は自分が直接の被害者ではなく,自分以外の人が何かしらの仕打ちを受けた際,そのような仕打ちをした相手に対して自分が報復する行為であるとされている.このことから,本研究で取り上げた報復度は回答者が「Aさん」から欺瞞行為を受けた上で「Aさんに仕返しする−仕返ししない」と尋ねていることから,本研究では「利己的な報復」のみを測定していたことが考えられる.また,報復には自分が受けたことと同等のことをやり返すことが考えられる.そのため,欺瞞行為を行った相手に対しては,欺瞞行為をもってして報復することが考えられるだろう.このときの欺瞞行為は,自分の被った不利益を相手に報復することによって回避したいといった「利己的な欺瞞行為」であると考えられる.そのような不利益を回避する目的でする欺瞞行為は,もっとも行われやすいことが明らかにされている(Panasiti,2011).つまり,本研究におけるゲーム場面の報復度の高さは,欺瞞行為の行いやすさと関係があることが考えられる.また,人々は自分が直接の被害者ではなかったとしても,規範から逸脱した人間を罰しようとする傾向を持っていること,第三者から制裁があることによって社会規範から逸脱した行為は事前に抑制されることが指摘されている(蛯名・山森,2017).
 以上のことから,日常場面において,報復を行うことで自分の被った不利益を回避したいという思いはあるものの,社会規範から逸脱した行為であるため,第三者から制裁が加わる可能性から抑制されることが考えられる.それがゲーム場面では報復が促進されるということは,ゲーム場面は第3者からの制裁が考えにくい場面である,つまり「日常生活とは切り離された時空間」が成立していることが可能性として考えられる.
 しかし,本研究は欺瞞行為を受ける際の捉え方に着目している以上,利己的な行為をする側の心理状態を明らかにするようなものではない.そのようなことからも,報復度に関する考察については,一部において推測の域を出ないところも存在するため,この考察が適当であるかどうかは,再度,報復を行う側から検討する必要があるだろう.



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