【問題と目的】
2.死に対する態度


2-1.死に対する態度について
 
 死に対する態度とは,死生観の一つであると言えるだろう。死というテーマを扱っている研究を概観すると,主に死への態度のみを扱っている時「死に対する態度」という言葉を用い,生きることについても同時に扱っている時「死生観」といった言葉が使われる傾向にあるが,死について考える時,「死」と対になっている「生」についても考えられることがあり,その区別は曖昧である。
 
 また,死というテーマを扱っている研究では,様々な尺度が用いられており,構造も様々である。例えば,青年期を対象とした丹下(1999)の「死に対する態度尺度」,死に対する態度の尺度であるDAP-R(Death Attitude Profile-Revised)を日本人向けに翻訳した隈部(2003)の「DAP-R日本語版」,死生観尺度のいくつかを参考に作成された田中・齊藤(2016)の「生と死に対する態度尺度」などがあり,それぞれの尺度で異なった構造をしている。青年期を対象とした死をテーマとしている研究でも,それぞれで死に対する態度の構造が異なり,研究同士を比較することが困難となっているのが現状と言えるだろう。そこで,本研究では,共通して「自分自身の死への態度」としている丹下(1999)の「死に対する態度」と隈部(2003)の「DAP-R日本語版」を用いて現代の大学生の死に対する態度の構造を検討する。今後,青年期の死に対する態度を扱う際,死に対する態度の構造を検討する必要があることを提案できるだろう。


2-2.死に対する態度に関する先行研究
 
 死に対する態度についての研究を概観すると,子どもの死に対する態度を扱っているものから,中年期・老年期を扱っているものまで幅広い年代が対象となっており,青年期においても死に対する態度を扱う研究はされている。
 
 瀧川・田中(2012)や丹下(2004)など,様々な研究によって死別経験の有無と死に対する態度との関連については有意差が見られないことが明らかとなっている。倉田(2008)は死別経験がなくとも,死について深く考えた経験がある人は,死を中立的に受け入れることができるという。また,前原・橘川(2008)でも,死別経験の有無は死に対する態度や死に関する経験をした後の成長には影響を与えないが,看病をしたことがある人,すなわち死と身近に触れ合ったことがある人は,死に関する経験をした後に成長が見られることを示している。これらの研究から,実際に死に関する経験をしているかどうかではなく,死について考える機会があったかどうかが死に対する態度を変化させると言える。これは,石井(2013)や小正他(2015)の結果と合わせて考えると,死について考える経験が死に対する態度を変化させ,その結果時間的態度が変化していると考えられるのではないだろうか。

 新美・萩本(2010)は青年期における絶望感と死に対する態度の関係について検討しており,死を究極の自己否定であるとして,死を待ち望んでいるほど絶望感は低くなり,生きる意味や現世の価値を見失ってしまっているほど絶望感が高くなることを明らかにしている。絶望感については谷(1998)が時間的展望との関連を示しており,時間的展望が極端になった場合に絶望感が生まれるとしている。死に対する態度と絶望感,時間的展望と絶望感が関連しているのであれば,死に対する態度と時間的態度に関連があることも予想できるだろう。

 よって,本研究では,死に対する態度と時間的態度の関連を検討する。

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