【問題と目的】
4.幸せへの動機づけ
4-1.幸せへの動機づけについて
幸せとは,大抵の人が望み,理想とするものだろう。大石(2009)は幸せの定義について,理想の人生という視点から述べており,何が理想の人生かと問えば,その答えは十人十色であるが,そこには共通して自分の理想としている人生を歩んでいる人は,自分の人生に満足しているだろうとし,この満足度が幸せを理解する上で重要だと述べている。
浅野・五十嵐・塚本(2014)は,「幸せな生き方とは何か」について考察するために,個人の日常活動における動機づけを測定するHEMA(Hedonic and Eudaimonic Motives for Activities)尺度を,快楽追求と幸福追求という2つの観点から作成している。快楽追求とは,自らの心地よさを求めた動機づけを指し,快楽主義に基づく主観的幸福感への志向であり,幸福追求は自らの存在を最大限に生かすことを求めた動機づけを指し,幸福主義に基づく心理的幸福感への志向を意味する。自らの生活への態度という視点を本研究では死に対する態度とともに見ていくため,何を求めて生きるのかという視点を得るため,この尺度を本研究では扱う。
4-2.幸せへの動機づけに関する先行研究
幸せへの動機づけの中核となる,幸福感については様々な研究がある。
自分のために使う時間に対する態度と心理的well-beingの関連を検討した西川・渋谷(2010)では,何かに熱中しているだけでは心理的well-beingは変化しないが,何かに熱中していることが自分のために使う時間に対する態度に影響を与え,心理的well-beingにポジティブな影響を与えると述べている。
女子大生を対象として幸福感と時間的展望の関連を検討している諸井・丸山(2011)では,過去の幸福感の評定には,過去を拒絶しているかどうか,現在の幸福感には現在の充実感が,未来の幸福感の予想には未来への希望がそれぞれ影響していると述べている。
本研究で用いる幸せへの動機づけについては,現代の若者の時間的な価値観と幸せへの動機づけの関連を検討した南(2015)の研究があり,現在を重視している人は将来へ向けて自分の存在を最大限生かすことを目指し,将来に関心のない人はくつろぎややすらぎといった感情を求めているといった結果を示している。
これらの研究から,時間に対する態度や価値観,すなわち時間的態度と幸せへの動機づけにも関連が見られると予想される。よって,死に対する態度と時間的態度の関連を検討すると同時に,幸せへの動機づけについても検討する。
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