4.共感性
4−1.共感性とは
共感性とは,他者の経験についてある個人が抱く反応を扱う一組の構成概念であると定義づけされている(Davis,1994)。さらに共感性とは,他者の心理状態を正確に理解する点に重きを置く認知的な側面と,他者の心理状態に対する代理的な情緒反応を強調する感情的な側面から構成される複合的な概念として捉えられている(Davis,2006)。このように共感性を多面的・多次元的に捉え複合的に測定する尺度としてDavis(1980)の対人反応性指標(Interpersonal Reactivity Index : IRI)や鈴木・木野(2008)の多次元共感性(Multi-dimensional Empathy Scale : MES)が存在し,多く用いられている。
4−2. 多次元共感性とは
多次元共感性尺度(MES)は,情動面・認知面の両側面において「他者指向と自己指向」という反応傾向に弁別されている。情動的側面には,他者の苦痛に限定せず快感情も含めた応答的所産である「他者指向的反応(共感的配慮)」と「自己指向的反応(個人的苦痛)」,他者の心理状態に対する素質的な影響の受けやすさである並行的所産である「被影響性」が含まれる。認知的側面には,他者指向的な「視点取得」と自己指向的な「想像性」が含まれ,MESは5下位概念から構成される尺度である。
4−3. 共感性と愛着
共感性は愛着形成と並行して育まれていくものと考えられている(永井,2020)。例えば,親との関係について肯定的な認識をしているほど,共感的な関心をしやすくなることが明らかにされている(本多・櫻井,2010)。愛着における親密性の回避が高い人は他者の苦痛に共感的な体験をしにくく,見捨てられ不安が高い人は他者の苦痛に直面した時,自身が苦痛を感じられやすく,他者よりも自分に焦点が向けられやすいと考えられている。ただし,見捨てられ不安が高い人は他者とのつながりを求めすぎて,時に自己犠牲的に尽くすとも考えられている。そのため,ある程度の共感的関心をすることも考えられる。また,今野・小川(2012)は認知的共感性と愛着の関連を検討している。この研究によると,愛着回避は内的他者意識を媒介して他者感情の理解・視点取得に影響を与えているのに対し,愛着不安は直接的に他者感情の理解・視点取得に影響を与えることが明らかにされている。これらより,愛着回避は共感的配慮を,愛着不安は視点取得・個人的苦痛を介して友人関係における愛他行動に影響を与える可能性があるのではないかと考える。
4−4. 共感性と愛他行動
共感性は共感的関心のように愛他的傾向を含むものであり,他者に対する支援等の行動を促進すると考えられている(登張,2000)。共感性と向社会的行動との関連の研究では,共感性が高い人は向社会的行動をとりやすい傾向にあり,共感性は向社会的行動の規定因であることが明らかにされている(鈴木,1992)。また,桜井・葉山・鈴木・倉住・萩原・鈴木・大内・及川(2011)は,共感性と向社会的行動,攻撃行動との関連を調べ,他者のポジティブな感情・ネガティブな感情の両方に高い共感をできる人が最も向社会的行動をとることが示されている。共感の組織的モデルにおいては,他者に向けられる「共感的関心」と自己に関心が向けられる「個人的苦痛」のどちらの反応が主であるかによって援助行動する動機が異なるかということも明らかにされている(Davis,1994,菊池訳)。辻道ほか(2017)の大学生の向社会的行動と共感性,親子関係の関連を調査した研究では,男性においては親の受容的な態度は共感性に影響を与えていたが,向社会的行動には影響を与えないことが示唆されている。一方,女性においては,共感性に正の影響を与え向社会的行動の規定因になることが明らかにされている。しかし,父親の受容性は共感性とは関連していなかった。
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