2.ファンについて
2−1. ライブ・コンサートに参加するファンの特徴
ライブ・コンサートに足を運ぶ多くの人は,そのアーティストに魅力を感じ,生で観ようとするファンである。西川・渋谷(2011)によると,ファンとは「熱狂的な愛好者」という意味を持ち,ある対象に対して特別な思い入れのある人々のことである。西川ら(2011)はさらに,行動から見たファンの度合いについて,@流行,A評価,B参加,C働きかけ,D生活に分けることができると述べており,挙げた順にファンの度合いは高くなっていくと考えられている。@流行とは,ファンの入り口ともいえ,自宅等においてテレビで観覧をするファンであり,まだ周囲に左右されやすい。A評価とは,ファンの対象を評価し,好意を持つ,あるいは自分に合うと認識すれば,自らCDや雑誌等を購入するといった行動をとる。B参加とは,コンサートの会場に足を運び,「生」で観るといった自分自身がその場所・時間に参加するファンである。C働きかけとは,ファンレターを書く,情報を収集する,ファン同士のコミュニティをつくる等,ファンの対象に近くなれるよう働きかけを行う。最後のD生活とは,生活自体がファンであることを中心に組み立てられ,中にはコンサートツアーの日程に合わせて出産計画を立てるといった行動をするファンも存在する(西川ら,2011)。
ライブ・コンサートに出かけることはBの「参加」に当てはまり,この時点でファンの度合いはある程度高いことが予想される。一方で,そのアーティストのことをよく知らずとも,友人に誘われてライブ・コンサートに参加する人や,ライブ・コンサート自体が好きで,アーティストにこだわらず,様々な会場に足繁く通う人も存在する。このことから,ライブ・コンサートに参加するのは,熱狂的なファンだけではないことが汲み取れ,ライブ・コンサートに参加する人のファンの度合いを測り,明確化する必要があると考えた。
一般にファンと呼ばれる人のなかでも,アーティストの「熱狂的な」ファンは,ライブ・コンサートに日常的に時間を費やして何度も通っていることが予想される。実際筆者自身もあるアーティストのファンであり,そのアーティストのコンサートに関する情報は逐次取得し,可能であれば足を運ぶようにしている。
また,元々そのアーティストのファンでなくても,友人に誘われてライブ・コンサートに参加することで,そのアーティストに興味を持つようになることも考えられる。実際にライブ・コンサートに参加するうちに,ライブ・コンサートに参加すること自体に何らかの価値を見出すことで,そのアーティストのライブ・コンサートのリピーターとなることがある。リピーターになることにより,ファンの度合いも高くなり,その特定のアーティストの熱狂的ファンへと成長していく。年々ライブ・エンタテインメントの市場規模が拡大し続けている背景には,このようなリピーターが増加していることが要因の一つとして考えられる。
2−2. グループと個人アーティストのファンについて
アーティストには,グループで活動しているアーティストと個人で活動するアーティストが存在する。グループで活動するファンについては,アイドルファンを例とすれば,個別メンバーを推すファンが存在する一方,グループ全体を推して応援している,いわゆる「箱推し」をするファンも存在する。また,現在のアイドルは,多人数グループが人気を博しており,ソロで活躍するアイドルはほとんどいない。つまり,個人で活躍するアーティストは,ほとんどがアイドル以外のミュージシャンであることが予想される。
小城(2002)は,ファン対象の職業カテゴリとファン心理の関連を見る研究を行った。その結果,ファンになるきっかけとして,「擬似恋愛感情」と「外見的魅力」は,「ミュージシャン」よりも「アイドル」が顕著に高い値を示していた。特に「疑似恋愛感情」については,ミュージシャンにはほとんど見られなかった。ミュージシャンは「作品の評価」が大きな割合を占めていたことから,歌声や歌唱力などのパフォーマンスに期待し,音楽性が自分好みのミュージシャンを応援しているということが予想される。
アイドルについて,小川(1998)は,「アイドル」とは,歌手というよりも,歌唱というパフォーマンスを通じてキャラクターを提示する職業であるということを示唆している。
2-3. アイドルファンの特徴
アイドルは,アーティストの中でも特徴的である。アイドルは,ファンの疑似恋人として存在価値のあることが指摘されており(稲増,1989),対人魅力からさらに発展して,ファンがアーティストに対して恋愛感情に似た好意を持つことも考えられる。
徳田(2010)は,ジャニーズファンの特徴として,コンサートで演奏されるであろう曲を聴き込んだり,振り付けの練習をしたりといったような予習は欠かさないという特徴を挙げている。徳田(2010)はさらに,ジャニーズファンは,自分の好きなアイドルのことを「担当」と呼び,「担当」の名前入りうちわを片手にコンサートに熱狂すると述べている。
このように,他のアーティストにも熱狂的なファンは存在するが,多くの先行研究から,アイドルの熱狂的なファンは,一線を画していることが明らかにされている。
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