3. 目標志向性と行動
3-1.目標志向性の分類
人がどのような達成目標をもつかによって,学習中の失敗の原因の考え方,また失敗後の行動が異なってくる。従来の達成目標研究では,「熟達目標(mastery goal)」と「遂行目標(performance goal)」という2つの枠組みが主流であったが,Elliot&Harackiewicz (1996)は,遂行目標を「遂行接近目標(performance-approach goal)」と「遂行回避目標(performance-avoidance goal)」に分類し,3つの枠組みから目標を捉えている。「熟達目標」は課題の熟達や上達の獲得に向けられた目標,「遂行接近目標」は自分の有能さを誇示し,ポジティブな評価を得ようとする成功接近的な遂行目標,「遂行回避目標」は自分の無能さが明らかになる事態を避けネガティブな評価を回避しようとする失敗回避的な遂行目標である。
3-2.目標志向性と学習行動
学習場面において熟達目標や遂行接近目標は学習行動に正の影響を与えるが,遂行回避目標は負の影響を与えることが,光浪(2010)や田中・山内(2000)によって明らかにされている。学習に対する取り組みにおいては,他者との比較よりも自己の成長や課題の深い理解などが着目され,個人内基準である熟達目標が採用されやすいと考えられる。遂行接近目標は能力の高さを誇示するというポジティブな結果に接近するため,学習行動に正の影響を与えていると考えられる。遂行回避目標は他者と比べてできないことを避けることを目標にするため,失敗した場合に自尊心が損なわれるのを防ぐために積極的な行動を避けるセルフ・ハンディキャッピング行動を助長させる(光浪,2010)ことから,学習行動に負の影響を与えていると考えられる。
3-3.目標志向性と運動
藤田・末吉(2010)はNichols(1989)やDweck(1986)による課題志向性(学習目標)と自我志向性(遂行目標)の観点から,目標志向性とシャトルランの関連を検討している。藤田・末吉(2010)において,課題志向性は「個人内の基準により努力することを有能と捉えている」ことと定義されており,従来の熟達目標と捉えることが出来る。自我志向性は「他者との比較により優れていることを有能と捉える」ことと定義されており,他者の存在との比較によって自己に対する評価を得ようとしているという観点から,従来の遂行目標と捉えることが出来る。シャトルランにおいては,自我志向性(遂行目標)の高い者は,課題志向性(熟達目標)の高い者よりも諦め意図が高く,スポーツや運動においては,目標志向性の種類はパフォーマンスへは影響せず努力や諦めに影響していることが明らかにされている(藤田・末吉,2010)。高い競技レベルのスポーツ選手は課題志向性と自我志向性の両方が高いとされている(Roberts,2001)ことから,スポーツにおけるパフォーマンスには目標志向性の種類の影響がみられなかったのではないかと考えられる。一方,中須賀(2013)は中学生における体育授業の研究において,自我志向性(遂行目標)は男子の日常的な運動実施に対する認知に正の影響を示し,課題志向性(熟達目標)は女子の日常的な運動実施に対する認知に正の影響を示していることを報告しており,運動に関しても目標志向性の関与がみられることを示唆している。
3-4.目標志向性とダイエット行動
ダイエット行動においても目標志向性との関連があることが推察されるが,その関連については明らかにされていない。そこで,本研究では目標志向性がダイエット行動に与える影響について検討する。ダイエットにおける目標志向性尺度(渋谷,2006)は,Elliot&Harackiewicz (1996)が提唱した熟達目標,遂行接近目標,遂行回避目標という枠組みを反映した項目になっているとは言い難い。そこで渋谷(2006)の尺度の項目の検討,および光浪(2010)の目標志向性尺度の項目を参考に語句を修正し,ダイエット行動に関する目標志向性尺度を作成した。
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