3. 新たな授業形態について
しかし近年では,従来のような一斉教授型授業ばかりが行われているわけではない。文部科学省は大学教育の質的転換として,「従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から,教員と学生が意思疎通を図りつつ,一緒になって切磋琢磨し,相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り,学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブラーニング)への転換が必要である」(「中央教育審議会答申」文部科学省,2012)とし,ALを取り入れた授業が増えてきている。また,2017年に公示された小中学校の新学習指導要領においても,「主体的・対話的で深い学び」をキーワードにALを中心とした授業方法が中核に位置づけられるようになっている。つまり小中高大すべての学校種においてALは求められている。
ところで,ALがなぜ学校教育現場で必要とされるようになってきたのだろうか。
そもそもALは米国が発祥であり,Barr&Tagg(1955)が「教えるから学ぶへ(from teaching to lerning)」という言葉がきっかけとなり求められるようになった。江原(1994)は,教えるから学ぶへと教授学習パラダイムを転換させなければならなかった理由として,教育重視の教員の役割が,研究重視へと偏重し,それをもう一度教育重視へと戻そうとしたからだ,と述べている。すなわち,大学教員が社会における一人前の大人を育てる場であった高等教育において自身の研究活動に没頭し,教育活動を副次的なものと捉えるようになってしまった現状から再び教育に目を向け,学生の学びと成長が目的に掲げようという動きが広がっていったことにある。
また溝上(2014)は,今まで高等教育に進学してこなかった,新しいタイプの若者が進学するようになった「学生の多様化(diversity of students)」も一因であると述べている。第二次世界大戦後から学生数が急激に増加した米国の高等教育は成績優秀者のための教育から,大衆のための教育へと変化していった。そのため,新しいタイプの学生が大学教育を受ける十分な準備がなされていなかったり,大学で学ぶことの意味,目的意識が希薄であったりして伝統的な方法で熱心に講義しても,学生たちは十分に理解しなかったリ,関心を示さなかったりするのであった(溝上,2014)。このような学生に対して,ただ聞くだけではない能動的態度が求められるAL型の授業が行われるようになった。
日本においても1950年代には10%前後であった大学進学率は高度経済成長期には上昇し,70年代には30%前後にまで上昇した(学校基本調査 年次統計,2016)。日本にも米国同様学生の多様化が進んだといえるだろう。そして,1990年代の大学授業の改善として取り入れられた授業の最後にコメントシートを配り,その日の授業で考えたことや感じたことを数行書かせ,それに授業者が一言コメントして返すという双方向性の授業の先駆けとなる授業法が登場した。
溝上(2014)は,ALをタイプによって3つに分類している。タイプ1は教員主導・講義中心型でコメントシート・ミニッツペーパーや小レポートなどを用いたAL程度が低いものである。タイプ2は教員主導・講義中心型でディスカッションやプレゼンテーションなどを用いたAL程度が中〜高いものである。タイプ3は,学生主導型で,ディベート・PBL(Problem‐Based Leaning)やフィールドワークなどを用いたAL程度が高いものである。
ALには様々な手段や方法がある中で,授業に応じて適当なものが取り入れられている。現在の大学生にとって,一斉教授型授業とAL型授業が混在していることは周知のことであろう。
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