居場所感


1.7 居場所感について

 本研究で取り扱う、居場所という言葉は、1980年ごろより、不登校・学校適応問題への対応に関連して、「居場所」という言葉が用いられるようになった(石本,2010)。居場所という言葉は「いるところ、いどころ」と定義されていが、先行研究の中では、単に人がいる所という、物理的な空間や意味を指し示すだけでなく、心理的な意味を表し、快感情を伴う場所、時間、人間関係を指していると指摘している(杉本・庄司,2006,石本,2010)。さらに、小畑他(2001)の研究では高校生、大学生に居場所だと感じる時間や空間を記述させ、その記述をもとにカテゴリーに分けた。その結果、「対人関係」、「娯楽」、「休息・排泄・食事」、「家・部屋」に関して居場所であると感じるということを明らかにしている。このように、居場所が単に物理的なものを指す概念でなく、心理的なものも指す概念であるということがわかる。しかし、研究を行う上で、居場所感は対人関係、時間、場所に関係しており、非常に多義性に富んだ概念となってくる。よって、居場所感は多義性に富んだ概念であるため、何に関する居場所感にするかを、研究の目的に沿って規定する必要があるだろう。本研究では自己表現の3タイプによってどのように居場所感を感じるかについて検討をするので、対人関係に関する居場所感に焦点を当てる。 その中で、石本(2010)は居場所に関して、物理的なものではなく、他者との関係の中で、個人が「ありのままでいられる」ことと「役に立っていると思えること」、つまりは他者との関係に対する意味づけを居場所の心理的条件とした。実際に自分が役に立っていると思えることで居場所感を感じる事例がある。断続的に欠席をしている、不登校気味の女子中学生が、学校行事の中で、特技である小物作りを活かし、バザーの展示物や、体育祭の応援旗の作成で活躍し、学校で居場所を感じるようになっている坂本(1993)の事例がその一つである。このことからも、対人関係から捉える居場所は、不登校・学校適応問題に対して有用であると考えられる。本研究で中心的な研究対象となる大学生はアイデンティティの確率、親からの自立といった思春期・青年期の課題に直面する時期であり、大学入学後に際しての環境変化も大きく、卒業後の職業選択も迫ってくるために心理面に対する負荷は決して軽くなく、不適応を起こしやすい時期でもある(三宅他,2015)ということを考えると、大学生にとっての居場所感を検討することは意義があると考えられる。



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