本稿のまとめと考察
本研究では,コロナ禍において,若者の中には不要不急と言われるような外出をするグループと,外出に対して何かしら抵抗があるため,外出を控えているグループにおいてどのような違いがあるのかを明らかにするために,新型コロナウイルスに対する意識と不安,文化的自己観,同調志向が外出時に感じる罪悪感と外出回数にどのような影響を与えるか検討してきた。
本研究の目的については,以下の4つの仮説を立てて検討した。
仮説1:相互協調的自己観が高い人は,所属集団との関係維持のために外出行動を起こし,罪悪感を喚起しやすい
仮説2:相互協調的自己観が高い人は,コロナ不安や同調志向が高く,外出行動に対して罪悪感を喚起しやすい。
仮説3:相互協調的自己観,相互独立的自己観の高低に関わらず,新型コロナウイルスへの関心や感染予防に関する意識が高い人ほど外出回数が少ない。
仮説4:女性は男性に比べてコロナ不安が高く,外出行動に伴う罪悪感が大きい。
結果として,以下のことが明らかになった
他者との関係性を重要視し,既存の関係性が崩れることを避けようとする傾向の人は,コロナウイルスに対して日常的に感染予防策を実施し,感染や重症化することについて身近に感じていたり,関係性の崩壊に繋がる事態であると認識しているため,感染することへの不安や,周りの人が外出しているか確かな情報が分からない中での外出には不安を感じることが示唆された。また,日常生活で他者と関わる時間が減ることについても不安を感じており,他者とのコミュニケーションが取れない中での外出行動は,コロナウイルスに感染する不安というよりも,「周りの人がどう思っているのか分からない」ことや,「他の人が自粛する中で自分だけが遊びに出ていることで他者から白い目で見られないか」という他者評価を気にして罪悪感を喚起しているのでないかと考えられる。中谷内ら(2021)も新型コロナ対策と行われる手洗い行動は自他への感染防止よりも他者への同調が主な動機であると主張しており,コロナに感染すること自体ではなく,他者との関りが不安や罪悪感,行動に影響を与えているのではないかと考えられる。一方で,他者との関係性よりも自身で定めた規範やルールを大切にして行動を決定する傾向の人は,その人自身のもつコロナへの態度や感染防止意識の高さが不安の高さに繋がっており,喚起される罪悪感も自身の不安の大きさに影響を受けることが示唆された。部活動やサークル活動に従事してきた人は,今まで部活動やサークル活動に充てていた時間が空白になり,その時間の穴埋めや,部活動やサークル活動が担ってきた集団とのつながりや成員同士の関係性を保つため,不安や罪悪感を抱えながらも外出を行っていることが示唆された。性差については女性は男性に比べて不安を感じやすいことが分かったが,これはコロナによる影響だけでなく,女性の方が男性よりも不安を感じやすいことが影響している可能性があり,男女で罪悪感や外出回数に顕著な差は見られなかった。
次に,本研究の今後の課題としては以下の点が考えられる。
使用した「大学生版COVID-19 感染拡大不安尺度』「文化的自己観尺度」において既存の下位尺度が得られなかった。そのため,より適切な尺度があったのではないだろうか。
次に,学年ごとのデータ数に偏りがあり比較困難なことから,学年による一要因分散分析の検討を行わなかった。先行研究では大学生活不安に関して,大学生活へ馴染んでいくことから,学年が上がるにつれて不安が小さくなっていくこと(藤井,1998)が示されており,コロナ禍になってから入学した大学1・2年生と,コロナ禍以前の大学生活を経験している3・4年生とでは感じる不安の差を検討するのは重要な要素であると考える。
また,罪悪感を測定方法にも課題があり,実験協力者には数値で罪悪感の程度を回答してもらったが,罪悪感が高い人と低い人が具体的にどのような感情を抱いているのかまでは本研究では測定できなかった。加えて罪悪感の矛先が特定の集団に向かっているのか,それとも自分の周囲の人達や,広く社会に対して矛先が向いているのかが本研究では十分明らかにできなかった。また,質問紙にて外出場所を訪ねたが,本研究を行った時期が大学の夏季休業期間という事もあり,中には帰省を外出に含めていたり,帰省先からの外出を回答した人もいたと考えられる。共に生活する人がいる場合,自身が感染するリスクだけでなく,同居人が感染した際には自身も感染するリスクが大きくなるため,一人暮らしの学生と,家族と住んでいる学生ではコロナに対する態度や自身が感染すること,濃厚接触者になることへの考えに違いがあると考えられる。そのため一人暮らしの人と,家族や他者と共に生活している人で外出に伴う罪悪感の感じ方の違いを検討することは必要だと考える。
他にも,本研究では「部活・サークル不安」が高いほど罪悪感が多くなるという結果になり,部活やサークル従事者とそうでない人の間には考え方の違いがあることが推測され,その差を集団に対する同一性と考えたが,同一性の違いが罪悪感や外出回数に本当に影響しているのか、影響していた場合にはどのように影響しているのか検討する必要があるだろう。
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