4.同調志向


人は,明らかに誤った判断であっても,それが一枚岩の多数派の人たちによって示されていれば,多くの人は同調してしまうことがAsch(1995)をはじめとする過去の同調行動の研究から明らかになっている。他者の意見に同調する行動は,権威に対する無抵抗な服従や集団浅慮などの社会問題につながることが多くの研究から示されている。同調(conformity)とは,ある個人が,集団や他者の設定する標準ないし期待に沿って行動することと定義される。特に,集団状況で,他の成員が一致して自分とは異なる意見を主張するとき,同調は生じやすいとされる(Asch,1955)。またDeutsch&Gerard(1955)は,同調には多数派から受け入れられたいという“規範的影響”による同調と,他者からより正確な情報を得ようとする“情報的影響”による同調が存在すると主張しており,前者は自身の判断に確信が持てなかったり,他者からの圧力を感じたりする状況で生じやすく,後者は自分の判断や行動が正しいかどうかを直接確かめることができない場合に判断の拠り所として他者の意見や行動をあてにしようとする同調行動である。横田・中西(2010)は規範的影響と情報的影響を弁別した日本語版同調志向尺度を作成し調査を行った。その結果,規範的影響と情報的影響の間に弱い正の相関がみられ2つの因子が完全に独立していない事を示した。これは,規範に従うように同調する人の中には,他者の情報を参考にしやすい傾向を持っている人がいることを意味している。

コロナ禍での行動制限や感染防止対策の実施は法律的な拘束力はなくてもマナーとして社会に浸透し,感染者が減少している今日でも多くの人がマスクの着用や手指の消毒を行っている。同調行動の観点から考えると,自分は特段の感染対策をしなくてもよいと心のなかで思っていても,周囲の人が対策を行っていたり,同じような行動を取らないと冷ややかな目で見られてしまうことを避けるために,自身も感染対策を行っている人がいることが考えられる。また反対に,自分の周囲の人がそのような行動を全く行わず,外出や旅行などを行っている場合には,自身の考えとは異なり感染対策を実施していないという方向での同調行動をとる人もいることが考えられる。



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