5.本来感・自己受容について


 先行研究から,強み介入による,子どもたちへの様々な恩恵が明らかになってきている。強み介入は,自分のよいところを知り,自分について見つめなおすことから,「自己」に焦点が当てられる。この強み介入において扱う自己は,自己概念と密接に関わるものであると考えられる。そこで,ありのままの自分らしさを表す「本来感」と自分を受け入れる感 覚を指す「自己受容」を取り上げる。

 初めに,本来感とは,伊藤・小玉(2005)によって,「自分自身に感じる自分の中核的な本当らしさの感覚の程度」と定義されている。つまり,本来感とは,「ありのままの自分らしさ」と言えるだろう。続いて,自己受容とは,ありのままの自分自身を受け入れる感覚のことを指すと考えられている。また,自己に対する積極的な態度を表すとも考えられる。

 両者は,自分自身が自分に対して感じる概念という意味で,共通していると考えられる。この点について,折笠・庄司(2017)は,自分自身に対する価値判断を外部の基準や他者との比較によって行うのではなく,主観的に個人内の価値基準に重きを置くといった意味合いにおいて,本来感と自己受容は近接の概念であると述べている。実際に,大学生の本来感と自己受容の関連を検討した研究(新井,2017)から,自己受容と本来感の間で強い関連が示唆されている。両者の関連について,新井(2017)は,自己受容ができているものの方が本来感も高くなり,他者との関係性においてある程度自己を自由に出せているということが本来感を高めることが示唆されたと報告している。これより,本来感と自己受容は,自分をとらえるにあたって近接の概念であり,互いに関連が強いと考えられる。

 互いに関連が強いと考えられている本来感,自己受容であるが,強み介入による影響としては,どのようなことが明らかになっているのだろうか。上田・佐藤(2014)は,強みに対する認識,行動が本来感に与える影響について検討した研究により,本来感と強みに対する認識に有意な中程度の正の相関が示された(r=0.39,p<.001)と報告している。結果から,自己の強みに意識的であるほど本来感に肯定的な影響を与える可能性があると主張している。また,森本・高橋(2021)は,自己の強みの受容と本来感,体験の回避との関連を検討している。結果は,強みの受容と本来感の相関が,0.64,強みの受容と体験回避の相関が,-0.42 であった。これより,強みを受容できている者は,たとえ思考や感情などにネガティブな体験が起こってもその体験を避けようとせず,自分をあるがままの状態で受け入れているということが示された。これは,強みの受容を,自分の良いところを受け入れているという意味で,自分のことを受け入れているととらえると,本来感と自己受容の感覚が,日常の様々な物事の捉え方や自分自身の受け入れ方にも影響してくると考えられる。これらの研究から,強み介入が,本来感,自己受容に肯定的な影響をもたらすことが明らかになってきている。

 このように,強み介入による本来感,自己受容への影響を探ることで,ありのままの自分自身を大切にするという,自分自身の捉え方について検討することができると考える。そして,本研究において,強み介入と本来感,自己受容を取り上げ,子どもたちが強み介入においてどのようなことを感じ,自分自身をどのようにとらえ,どのような変化を感じるのかを探ることによって,子どもたちの本来感,自己受容を高めるために有効なアプローチについて明らかにしていくことができると考えられる。

 よって,本研究では,強み介入が本来感と自己受容に与える影響を検討し,子どもたちが自分らしさの感覚と自分を受け入れる感覚を大切にしていくことができる強み介入プログラムの在り方について検討していくこととする。



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