4.強み介入研究・調査研究とその効果について


 先行研究では,どのように強み介入が行われ,どのような効果が明らかにされてきているのだろうか。代表的な介入研究に Seligman et al.(2005)のインターネットベースの強み介入がある。この研究では,VIA-IS によって測定された 24 の強みのうち,上位5つの強みがフィードバックされ,参加者は 1 週間今まで試したことのない新しい方法で活用する。結果から,抑うつ感の減少と幸福感の増加が報告されている。先行研究の多くは,この介入方法をベースとしており,対象年代や関連を検討するものを変えて,研究が進められてきている(阿部・岸田・石川,2021;伊住,2019;森本・高橋,2015)。

 こうした知見を参考に,学校現場においては,子どもの強みの育成を目指した強みに基づく教育プログラムが実施されてきている。森本・高橋(2015)は,学校現場における強みの教育プログラム実施の意義について,自らの強みに自覚的でない児童期から,青年期にかけて強みの活用感が果たす役割について検討することは有意義であると主張している。

 強み介入プログラムにより,子どもたちには実際にどのような効果が見られているのだろうか。ここから,先行事例をもとに,子どもの発達段階に応じた強み介入プログラムの内容と効果について整理していきたい。小学生を対象とした研究に,伊住(2019)の強み介入プログラムがある。ここでは,子どもたちに自らの性格的な強みを自覚し,1 週間活用する介入プログラムが実施された。介入の結果から,多くの児童が充実感や満足感を感じ,well-being の向上が見られたと報告している。中学生を対象とした研究では,阿部・岸田・石川(2021)が,強み介入と精神的健康の関連を検討し,介入の結果から,生活満足度の向上や抑うつ症状の低減が報告されている。高校生の中でも女子を対象とした研究では,森本・高橋・並木(2015)が強み介入と自己形成支援との関連を検討している。結果から,生徒は自分の強みを自覚し,日常生活の中で発揮することにより,自己形成意識を高めることができたと報告している。同様の介入プログラムを,森本・高橋・渡部(2014)は,大学生を対象として実施した。介入の結果から,大学生の努力主義因子が高まったと報告している。このように,各発達段階に応じた介入プログラムが検討されてきており,強み介入が児童生徒や学生の日々の生活満足度の向上や将来の自己形成に有効であることが明らかになってきている。

 先行事例から,強みの介入プログラムによる様々な肯定的な影響が実証されてきている。その理由に,介入プログラムが強みを理解し,活用するプロセスを含み,強みに対して多角的にアプローチができる活動であることが挙げられるだろう。

 ところで,強みへのアプローチには,どういった段階があるのだろうか。高橋(2016)は,強みを積極的に見出だそうとする認知の検討を行うことが重要であるとして,認知的側面と意欲を基に,アプローチの段階を分類している。第 1 段階は,「強みの認識」であり,認知的側面のみに焦点を当てた概念である。第 2 段階は,「強みへの注目」である。これは,認知的側面に焦点をあてた概念であるが,強みを知ることだけでなくみつけようとするといった強みを知ることに対する意欲を含む概念である。第 3 段階は,「強みの活用感」であり,強みを活用する,活用しようとするといった行動に対する意欲を扱った概念である。

 中でも,強みの活用感の重要性が指摘されている。森本他(2015)は,強みの介入プログラムにより,自分の強みをより意識し,重要であると感じ,強みを活用している感覚が高くなったと報告している。さらに,強みの活用感は,全般的な自己効力感や心理的活力のような自信やポジティブな気分とも関連すると述べている。

 また,先行研究から,児童生徒の強みの認識や活用が,精神的健康に及ぼす影響について検討されてきている(小國・大竹,2017;阿部・岸田・石川,2018;阿部・岸田・石川,2019)。小國・大竹(2017)の調査から,子どもを対象とした強みの認識と強みの活用について,両者ともにストレス反応(不機嫌,怒り,無気力)との負の相関が示された。また,阿部・岸田・石川(2018)によると,自己の強みへの注目の高さが,1 ヶ月後の精神的健康(生活満足度・抑うつ)を高めることが示唆されている。さらに,阿部・岸田・石川(2019)は,小学生と中学生を対象とした強み注目尺度の作成から,子どもの場合,自己の強みへの注目は抑うつの低減により有効である可能性を指摘している。このように,自己の強みに注目することが,生活満足度や抑うつに正の影響を及ぼすことが明らかになってきている。



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